発表

一般研究発表(ポスター)
1AM-033

動物介在活動における人と動物の行動の経時変化

[責任発表者] 甲田 菜穂子:1
[連名発表者] 宮地 与志雄#:2, [連名発表者] 宮地 智恵美#:2
1:東京農工大学, 2:日本アニマルセラピー普及協議会

目 的
 認知症高齢者の増加に伴い、高齢者福祉施設への入居希望者も多くなっている。身体機能の低下、職員の人手不足、外的刺激の減少などにより、入居者の心的機能の低下も課題となっている。
伴侶動物は、人の心身の健康や福祉の向上に有用なことがある。高齢者福祉施設における入居者の生活の質を向上させる手段の一つに、動物とのふれあいを取り入れた動物介在活動がある。動物介在活動では、イヌを用いることが圧倒的に多い。それは、イヌはしつけがしやすく、飼育経験者も多く、親しみやすいことが挙げられる。しかし、甲田ら(2015)は、イヌ同様、人との長い関わりの歴史を持ち、ペットとして人気の高いネコも動物介在活動に用いることは可能であり、動物介在活動の幅の拡大に貢献しうることを発表している。
本研究は、イヌとネコを用いて特別養護老人ホームにおいて動物介在活動を継続して実施し、入居者の社会的行動を観察した。そして、イヌ在場面とネコ在場面における入居者の社会的行動の変化を明らかにすることを目的とした。

方 法
 特別養護老人ホームにて、ボランティア団体による施設訪問型動物介在活動を月に1回、計15回にわたり観察を行なった。対象者は、特別養護老人ホームの入居者14名(女性12名、男性2名)であり、平均年齢は86歳であった。彼らは重度の認知症や身体障害を抱え、日常生活における対人コミュニケーションは困難な状態にあった。動物は、小型犬4頭、ネコ7頭を用いた。動物は、動物介在活動にふさわしい、穏やかで健康な個体を選別した。入居者と動物のふれあいは、施設内の約5×5mのロビーにて実施した。ふれあいの様子は、2台のカメラを用いて部屋の両脇から録画した。各回、イヌは2〜4頭、ネコは3〜5頭を使用し、動物と実施者(ハンドラー)はペアになって参加した。入居者は2班に分かれ、毎回、イヌとネコ各15分間ずつふれあった。
分析には、各ふれあいの開始直後と終了直前の2.5分ずつを除いた10分間を採用した。録画映像を再生し、入居者1名ずつ、動物/実施者に対して「した/された」行動については10秒ごとのワンゼロサンプリング法、他者との身体接触は10秒ごとの点観察法を用いて記録した。
 行動の生起量の経時変化を明らかにするため、15回の実践を5回ずつ3期に分けた。行動ごとに対応のある一元配置分散分析(下位検定はテューキーのHSD検定)を用いた。

結 果
 動物とのふれあい場面においても、入居者の活動性は全般的に低く、他者との関わりは多いとは言えなかった。それでも、社会的関わりが生じた場合は、入居者と動物との関わりでは、イヌ在場面とネコ在場面共に、入居者は動物に注意を向け、撫でる、触るなどの身体接触を主に行なった。入居者と実施者との関わりでは、動物種に関わらず、動物を介して発声による相互交渉を主に行なった。
行動量の経時変化では、入居者は、イヌ、ネコ共に注意を向ける行動の発現を増加させた。一方、入居者が動物と身体接触をする、実施者と話すという基本的な相互交渉は維持されたが、介在動物種に関わらず、他の社会的関わりの生起量は減少していくものがあった。

考 察
特別養護老人ホームにおけるイヌとネコを用いた動物介在活動では、動物は入居者の関心を引き、重度の障害がある入居者でも、動物を触り、実施者と話すことで他者と関わりを持つことが分かった。つまり、ネコもイヌも、入居者の関心を引き起こす刺激になり、入居者に動物や実施者という他者に対して行動を起こさせる効果をもっていたと言える。動物介在活動は、対人コミュニケーションが困難になった高齢者にとって、単純な行動を用いて、自然な感じで他者に社会的関わりができる機会を提供することができる。
動物介在活動を継続すると、入居者の動物への関心は高まっていった。しかし、これは明白な社会的行動の増加には結びつかなかった。動物に触る、実施者と話すという基本的な関わり行動は経時的に維持されたものの、社会的関わりの生起量は減少したものがあった。これらの結果をもたらした要因には、まず、入居者は動物に関心はあったものの、加齢による機能低下が行動の発現を阻害した可能性が考えられる。さらに、動物とのふれあい場面は、対象者、実施者、動物の3者によって作り上げていくものであるため、3者の相互作用の影響も考えられる。すなわち、訪問チームは、これまで本研究の対象者のように、活動性の低い人達を対象とすることがなかったため、初期には比較的、活発に行動をしたが、活動を重ねるにつれ、入居者の状態に合わせ、静かに関わる方法を調整したことが考えられる。つまり、通常の動物介在活動のように、動物と活発にゲームをしたり、遊んだりするのではなく、落ち着いた場面を構成し、入居者が動物と実施者と一緒に、場と時間を静かに共有するように変化していったとも解釈できる。

謝 辞
本研究は、科学研究費補助金若手研究(B) 、大阪ガスグループ福祉財団の助成を受けました。研究の実施にあたり、近藤千里氏、今萌美氏、施設職員、ボランティアの皆様に多大なご協力をいただきました。
引用文献
甲田菜穂子・宮地与志雄・宮地智恵美 (2015). 特別養護老人ホームの動物介在活動における人と動物の行動 日本発達心理学会第26回大会論文集.

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