発表

一般研究発表(ポスター)
1AM-031

反実思考によって防災の見方は変わるのか?

[責任発表者] 長谷 和久:1
[連名発表者] 中谷内 一也:1
1:同志社大学

目 的
 「もしも〜していれば (していなければ) 、…という別の結果になっていただろうに」という形式をとって生成される反実思考 (Counterfactuals) は、目的行動の喚起、維持を促進することが明らかになってきた (Markman, McMullen, & Elizaga, 2008) 。
 反実思考は、比較対照する代替結果が実際の結果よりもポジティブなのか、ネガティブなのかによって大別される。本稿では、実際の結果とよりポジティブな代替結果を比較する条件を「上向き反実思考条件」と呼称し、これは「もしも〜していれば (していなければ) 、もっと良い結果になっていただろうに」という形式をとる。一方で、よりネガティブな代替結果と比較する条件を「下向き反実思考条件」と呼称し、これは「もしも〜していれば (していなければ) 、もっと悪い結果になっていただろうに」という形式をとる。
 先行研究において、「上向き反実思考」は、アナグラムなどの認知的課題のパフォーマンスの向上に貢献することが示されていた (e.g., Roese, 1994) 。こうした認知的課題に対して反実思考がポジティブな影響を及ぼすことを示した研究は多く確認できる。さらに、反実思考の記述が禁煙行動や、健康的な食行動といったような「良いと理解している」主観的に合理的な行動の喚起に対してポジティブな影響を及ぼすことが明らかになった (e.g., Page & Colby, 2003) 。しかしながら、認知的課題に与える影響を検討した先行研究に比べて、日常場面の主観的に合理的な行動の促進や維持に対して、反実思考が及ぼす影響を検討した先行研究の数は限られていた。
これを踏まえて本研究では、「良いと理解している」合理的行動として「防災行動」を採択し、反実思考が防災行動、ひいては「被災の恐怖度」にどういった影響を及ぼすのかを特別な仮説は設けず、探索的に検討した。実験では、地震による被災シナリオを参加者に提示し、それに対して各条件に応じた反実思考の記述を求めた。このとき、提示シナリオの時制を操作し、被災体験が過去であるか、未来であるかを独立変数として操作した。研究目的として、1. 上向き、下向き反実思考が「防災行動意図」、「被災の恐怖度」にどういった影響を及ぼすのか、2. シナリオの時制によって反実思考の影響は変わってくるのか、の2点について検討した。
方 法
参加者 関西の私立大学生164名 (M=19.42, SD=1.31)
実験要因 記述する反実思考の種類 (上向き/下向き) × 被災シナリオの時制 (過去/未来) の参加者間デザインを採用した。
シナリオの概要 震度6弱の地震が発生し、その地震によって、家財道具が散乱した。以降も余震が続き、避難指示が発令されたため、部屋が散乱した状態で避難所へ向かった。避難所では、十分な食料配給が行われず、空腹に悩まされた。明くる日、避難指示は解除され、無事に帰宅できた。
従属変数 感情状態 (4) 、被災恐怖度 (1) 、防災態度 (3) 、防災行動の有効性 (1)、防災行動意図 (2) についてリッカート法で回答を求めた。※ ( ) 内は項目数を表す。
手続き 被災シナリオを提示し、そのシナリオを参加者自身の身に生じた体験として読了することを求めた。続いて、そのシナリオから想起される反実思考の記述を求め、最後に従属変数群への回答を求めた。
結果と考察
感情状態内の不安項目、被災恐怖度、防災行動の有効性認知、のそれぞれにおいて「反実思考の種類」と「シナリオの時制」の交互作用が有意であった (ps< .022) 。下位検定を実施した結果、過去・下向き反実思考条件に比べて、未来・下向き反実思考条件の得点が有意に高い、または高い傾向にあった (ps< .083) 。Figure 1 に防災行動の効果性認知の条件毎の得点を示す。また、下向き反実思考条件において、時制は被災恐怖度と防災行動の効果性の両方を有意に予測していた。媒介分析を実施したところ、時制が効果性に与える影響は被災恐怖度によって媒介されていることが明らかになった (Figure 2 上半分) 。本研究では、反実思考の種類によって行動意図の形成が促進されるとの知見は得られなかった。しかし、行動意図の形成を有意に予測する防災行動の効果性と被災恐怖度に対して (Figure 2 下半分) 、下向き反実思考条件では、時制の違いにより異なる影響を及ぼすことが示された。
結 論
将来的な被災に対する下向き反実思考が被災の恐怖度を高め、防災行動の効果性を高めることが明らかになった。

引用文献
Markman et al. (2008). JESP , 44, 421−428.
Page, C. M., & Colby, P. M. (2003). Psychol Market, 20, 955−976.
Roese, N. J. (1994). JPSP, 66, 805−818.

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