発表

一般研究発表(ポスター)
1AM-003

完全主義者にとって有効な認知的対処とは何か

[責任発表者] 清水 健司:1
[連名発表者] 清水 寿代:2
1:信州大学, 2:広島大学

目 的
 自分自身に対して完璧を求める認知は,課題に対する動機づけを増大させ,高い水準でのパフォーマンス維持をもたらすものである。しかし,このような完全主義的な態度の全てが成功に繋がるとは限らない。むしろ過度のプレッシャーのなかで自己制御が難しくなり,強いストレス反応を伴いながら,パフォーマンスの低下に至る場合もある。
例えば,石田(2005)は,完全主義者に対して情報収集課題を行い,重要な情報だけでなく周辺的な情報にも注意が向けられてしまうことから,結果として課題得点の低下につながることが示されている。このように,完全主義者は自分の能力を十分に生かせる場合もあれば,逆に生かせなくなってしまうケースがある。では,この対極的な結果を招くものには,どのような要因が考えられるのだろうか。本研究では,対処方略における有効性の観点から,完全主義者に適した認知的対処の検討を行う。
杉浦・杉浦(2003)は,ストレス事態に直面した場合の対処方法として「論理的分析」と「破局的思考の緩和」の2側面からなる認知的統制について提案している。前者は,問題に対する別の解釈を検討するため,複数の解決策を産出できる方略を指し,認知療法で獲得する対処スキルとされている。また後者は,否定的な思考が浮かんだときにそれに圧倒されず,思考をやめることができる方略を指し,マインドフルネス,ACTや森田療法で獲得する対処スキルとされている。
 両者はいずれも自己の認知・行動をコントロールする能力を向上させるため,一般的には適応性に資するものと位置づけられている。しかし同時に,自らの自動思考に対する代替案を捻出するのか,それとも捻出そのものから距離を置くのか,という互いの志向性に一定の差異を見せている。
そこで本研究では,完全主義者が自分の思考コントロールに苦慮しないですむためには,どのような認知的対処が必要なのかについて検討してゆく。

方 法
完全主義認知尺度:小堀・丹野(2004)による高目標設置,完全性の追求,ミスへのとらわれの3下位尺度から構成されるMPCIを使用し,15項目4件法で回答を求めた。
認知的統制尺度:杉浦・杉浦(2003)による論理的分析,破局的思考の緩和の2下位尺度,11項目4件法で回答を求めた。
思考の制御困難性:杉浦・丹野(1998)のWorry Process Questionnaire(WPQ)をもとにした尺度を用い,9項目5件法で回答を求めた。ある課題や対人関係において不安を感じたとき,どのような気持ちになるかを尋ねる尺度である。
調査協力者:N県内の大学生210名(男性85名,女性125名)を対象とし,平均年齢は20.4歳(SD=1.26歳)であった。
結 果
完全主義者における認知的対処の効果を検討するため,従属変数を思考の制御困難性,統制変数を性別(Step1),独立変数を完全主義および認知的統制の主効果項(Step2),その交互作用項(Step3)とする階層的重回帰分析を行った。
その結果,完全性の追求×論理的分析,ミスへのとらわれ×論理的分析or破局的思考の緩和において有意な交互作用が,完全性の追求×破局的思考の緩和において交互作用が有意傾向を示した。単純傾斜の検定を行った結果,破局的思考の緩和が実行できる人は完全主義なのか否かに関わらず,自らの思考が混乱をきたすことは少ないことが示された。ただし,論理的分析では,完璧にこだわらない人であれば思考の混乱を回避できるが,完璧を求める人にとっては思考の制御に有効性を持つとは限らないことが示された。

考 察
 本研究の主眼は,完全主義者にとって効果的である認知的対処を検討することである。まず物事に完全を求めない非完全主義者にとっては,いずれの認知的統制においても思考のコントロールには有効であった。しかし完全主義的な認知を持つ場合,自動思考の代替案を諦められるスキルは効果的であったが,代替案を捻出するスキルは必ずしも効果的とは言えなかった。
これには,完全主義者にとって認知的な操作のみで問題解決をはかる行為が,思考抑制に類似した逆説的な効果を生んでいる可能性が考えられる。そして彼らには,問題解決的な姿勢ではなく受容を志向するスキルが適応的だと示されていた。これは,完全主義的な認知を持つ場合,認知療法のみでは不安を残す可能性があり,受容を志向する介入方法も併せて検討する必要があることを示すものである。

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