発表

一般研究発表(ポスター)
1AM-001

複雑系心理学の提案

[責任発表者] 三ヶ尻 陽一:1
1:東京大学

目 的
 反応時間は,心理学研究において頻繁に用いられている.しかし,ex-Gaussian (Balota & Yap, 2011)やdiffusion modelによる分析(Ratcliff, 1998)が行われている現在においても分布が正に歪んでいる理由は解明されていない.一方,経済物理学は,市場を単純なルールに基づいて活動するディーラーの集まりと捉えることでインフレ等のメカニズム解明に成功している(高安, 2004).そこで,提案モデルでは,経済物理学と同じように,判断を単純なルールに基づいて活動するニューロンの集まりが引き起こす現象として解釈し,反応時間についてより深く理解することが本研究の目的である.
モデル
 提案モデルでは,右半球と左半球が独立に活動できること(Gazzaniga, 1967)を仮定し,半球のそれぞれを記憶の想起に関係があると言われる神経雪崩(begs & Plenz, 2004)を再現できる砂山モデル(Bak, Tang & Wiesenfeld, 1987)で置換した.すなわち,砂山モデルの各点をニューロンに見立て,判断を二つの自己組織化臨界現象として解釈する.砂山モデルでは,隣接点が多いほど,雪崩の間隔が長くなり,大きい雪崩が発生しづらくなることを確認している.なお,フィティング関数として用いる累積度数分布は,である.なお,tは経過時間,a,bは各半球の平均雪崩間隔であり,a < bとする.tpmは,知覚と運動と判断準備の時間でありt < tpmのときP(t)は0とする.本分布の確率密度関数は正に歪んだ分布に見える.本発表では,パラメータa,bとtpmの関係について調べ,考察した結果を述べる.
方 法
 4名の参加者は,キーボードで回答するストループ課題(144試行)を8セット行い,それぞれの反応時間分布とモデルのフィッティングを行った.なお,このデータの分布の形状と誤りの関係は第13回認知心理学会で報告している.
結果と考察
 全データを合わせてtpmとaおよびbの間で無相関検定を行ったところ,tpmとaの間(t = -4.99, p < 0.001, r = -0.67),tpmとbの間(t = -3.19, p < 0.01, r = -0.50)で有意な相関が認められた(図1).判断開始が早い参加者ほど判断に時間を要していることがわかる.個人ごとに同条件で無相関検定を行ったところ,参加者2のa(t = -10.04, p < 0.001, r = -0.97),参加者3のa(t = -2.61, p < 0.05, r = -0.72)およびb(t = -3.56, p < 0.05, r = -0.82) 参加者4のb(t = -4.16, p < 0.01, r = -0.86)において有意な相関が認められた.参加者1は,全てのセットでtpmの値が十分に大きいためにパラメータaおよびbの値が変化しなかったと考えられる.参加者が同一の場合,知覚および運動にかかる時間は同じであるとみなしてよいだろう.すると,参加者2,3および4に見られた有意な相関は,判断の準備に時間をかければ判断自体に要する時間を短縮できることを示唆している.これを砂山モデルで解釈すると,判断に関するパラメータの値(aおよびb)が小さいことは各ニューロンの隣接点が少ないことに対応するため,判断の準備時間は,判断に関わらないニューロンを抑制し,その課題に適したネットワークを浮かび上がらせるための時間であると解釈できる.さらに言えば,抑制ニューロンは興奮性のニューロンに先だって活動することを推測させる.判断時間に特徴が現れる個人差は,二つの判断主体における抑制ニューロン群の活動の差異によって説明され得るかもしれない.
全体考察
認知心理学は,人の機能をモジュールに分けて解釈し,実験心理学は条件を統制して条件の差によって影響を受ける心理的な機能を他の機能と分けて解釈する.しかし,課題の遂行において脳や心の機能が複雑に連関しているならばこれらのアプローチにも限界が来るだろう.本研究は,複雑なものを複雑なまま理解する複雑系の考え方を取り入れ,反応時間研究に対して新たなパラダイムを提案した.

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