発表

一般研究発表(ポスター)
3AM-077

日本人が持つ文字の心的空間表象——ひらがなを用いた検討——

[責任発表者] 村尾 美幸:1
[連名発表者] 小野 史典:1, [連名発表者] 小杉 考司:1
1:山口大学

目 的
我々が持っている数字の心的表象は,空間的位置の情報を有していることが明らかにされている (Restle, 1970)。例えば,Dehaene, Bossini, & Giraux(1993)による実験では,呈示された数が小さいときには左側のキーによる反応のほうが速くなり,数が大きいときには右側のキーによる反応のほうが速くなる SNARC(Spacial-Numerical Association of Response Code)効果が見出されている。また,Fischer, Castel, Dodd, & Pratt (2003)が行った実験では,呈示された数が小さいときには視野の左側に注意が向き,数が大きいときには右側に注意が向くという空間的注意のシフトが起こることが示された。このような空間的注意の左から右への方向性は,読みの習慣によるものと考えられており,右から左へ筆記するアラビア語を母国語とするイラン人では,右から左へのSNARC効果が見られた(Dehaene et al, 1993)。また数字以外でもGevers, Reynvoet, & Fias(2003)がオランダ人に行った実験では,アルファベットについて,左から右への空間表象があることが分かっている。
村尾・小野・小杉(2014)は日本人を対象にひらがなを用いて実験を行い,呈示されたひらがなの違いによって,左右だけでなく上下にも空間的注意のシフトが起こることを明らかにした。しかしこの結果は,ひらがなが空間的注意を誘導することは示しているが,実際に我々がひらがなの心的空間表象を有していることを示すものではない。そこで本研究では,視野の上下左右のいずれかにひらがなを呈示し,その認識にかかる時間を調べることにより,日本人が持つひらがなの心的空間表象を直接的に明らかにすることを目的とした。
方 法
実験参加者 正常な視覚を有する大学生・大学院生12名
手続き Zキーを押して500ms後に画面中央に注視点が1000ms呈示された後,左右呈示条件では左右,上下呈示条件では上下に配置された正方形のうち,どちらかの枠内にひらがな(あ,お,か,こ)または記号(#,$,%,&)の中からいずれかひとつが呈示された(Figure 1, 2)。実験参加者は標的刺激がひらがなの場合,なるべく速く正確にスペースキーで反応し,記号の場合は何のキーも押さないよう教示された。左右呈示条件と上下呈示条件は間に3分程度の休憩を挟み,連続して行い,実施順序は実験参加者間でカウンターバランスをとった。
結 果
 各ひらがなについて,左右呈示条件の時は左の反応時間から右の反応時間を減じた差分,上下呈示条件の時は下の反応時間から上の反応時間を減じた差分を従属変数とした。左右の反応時間の差分を縦軸,上下の反応時間の差分を縦軸とし,それぞれのひらがなを布置したグラフを描画した(Figure 3)。
左右呈示における反応時間の差分について,1要因4水準(刺激語:あ,お,か,こ)の分散分析を行った結果,有意差はみとめられなかった(F(3,33)=1.61,p=.21)。また,上下呈示における反応時間の差分についても同様に1要因4水準の分散分析を行った結果,こちらも有意差はみとめられなかった(F(3,33)=1.01,p=.40)。
次にそれぞれが充分に0から離れているか否かをt検定で検討したところ,左右呈示条件のとき,“あ” (t(11)=2.52,p<.05), “か” (t(11)=2.70,p<.05)は有意に0から離れており,“こ”も0から離れている傾向がみられた(t(11)=2.12,p<.10)。上下呈示条件のときには有意差はみとめられなかった。
考 察
 実験の結果,“お”は原点から離れていないが,それ以外のひらがなは原点よりも右にイメージされていることが示された。このことから,日本人が持つひらがなの心的空間表象は,オランダ人が持つアルファベットの心的空間表象のような,左から右への直線的なものとは異なることが示唆された。
引用文献
Dehaene, S., Bossini, S., & Giraux, P. (1993). The mental representation of parity and number magnitude. Journal of Experimental psychology, 122, 371-396.
Fischer, M., Castel, A., Dodd, M., & Pratt, J. (2003). Perceiving numbers causes spatial shifts of attention. Nature Neuroscience, 6, 555-556.
Gevers, W., Reynvoet, B., & Fias, W. (2003). The mental representation of ordinal sequences is spatially organized. Cognition, 87, 87-95.
村尾美幸・小野史典・小杉考司 (2014). 日本人が持つひらがなの心的空間表象の検討 九州心理学会第75回大会発表論文集, 3.
Restle, F. (1970). Speed of adding and comparing numbers. Journal of Experimental psychology, 91, 191-205.

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