発表

一般研究発表(ポスター)
3AM-068

単色による和音の印象表現

[責任発表者] 熊倉 恵梨香:1
[連名発表者] 武藤 あゆみ#:1, [連名発表者] 横澤 一彦:1
1:東京大学

目 的
 高い音と明るい色、低い音と暗い色などの組み合わせを結びつけ易い傾向は多くの人に共通している。このような特徴間の非恣意的な結びつけを感覚間協応という(Spence, 2011)。感覚間協応は音の高さや色の明るさといった低次の視聴覚特徴同士だけではなく、感覚特徴より高次の特徴である調性などの音楽特徴との間においても存在する。たとえば、Palmer, Schloss, Xu & Prado-Leon (2013) は、テンポと調性が異なるクラシックの18種類の楽曲に対して37種類の色パッチの中から色を選択させた。その結果、テンポが早い楽曲や長調の楽曲には明るく鮮やかな黄色寄りの色が選ばれ、音楽特徴(テンポ、調性)と色特徴(明るさ、鮮やかさ、黄−青の色相)とが結びつけられることを明らかにした。さらに、クラシックの楽曲と選択色それぞれについて個別に8種類の感情表現単語(happy, angryなど)との連想強度を評定させた結果、両者に対する評定結果は高く相関することが示された。
 このように、楽曲が感情次元を介して色特徴と協応すると考えられているが、楽曲そのものというより、その構成要素である音楽特徴(調性、テンポなど)も色特徴と協応関係にあると考えられる。さらに、調性を確立するためには和声(harmony)が重要な働きをすることが知られているので、調性を構成する和声と色特徴とが結びついて、楽曲と色特徴との協応関係が生起した可能性も考えられる。もし調性や和声と色特徴との協応関係が存在しているならば、共通の媒介要因に基づいている可能性を検討する。一方、楽曲と色特徴との結びつきは、テンポやメロディなど、調性や和声以外の音楽特徴の関与で生起するものであり、和声単独では色特徴との協応関係は存在しない可能性も考えられる。
 そこで、長調と短調の主要三和音を用いて色特徴との協応関係を調べた上で、和音とそれに対して選ばれた色について個別に知覚的、感情的な形容詞との連想強度を評定させる実験を行った。

方 法
参加者 色覚、聴覚が正常な男女24名が参加した。
刺激 和音刺激として、ハ長調とイ短調それぞれの主要三和音(C, F, G, Am, Dm, Em)の基本形、第一転回形、第二転回形を用いた。この18種類の和音は、純音を組み合わせて作成した(ハ長調の中心音の周波数329.6Hz)。また色選択のために、共感覚研究で用いられる色パレットを使用した (Eagleman, Kagan, Nelson, Sagaram, & Sarmaa, 2007)。この色パレットは、正方形の枠の中に横軸方向に色相、縦軸方向に彩度の異なる色が連続的に並んでおり、明度はキーボードのボタン操作で変更可能であった。色パレット上での任意の色をマウスでクリックさせることで色選択させた。
手続き 和音18種について2回ずつ、参加者がその和音に対して最も合うと思う1色を色パレットから選択させた。その後、和音18種と、参加者が和音に対して選んだ36色について、感情に関する形容詞尺度5項目(喜んだ−怒った、楽しげ−悲しげ、能動的な−受動的な、強い−弱い、動揺した−穏やかな)と知覚に関する形容詞尺度5項目(明るい−くらい、鮮やかな−くすんだ、軽い−重い、あつい−つめたい、やわらかい−かたい)を7件法で評定させた。

結 果
 和音と選択色に対する評定値を元に、反復主因子法・バリマックス回転による因子分析を行った。和音18種に対する形容詞尺度10項目の評定値について、3因子が抽出された。ただし、「喜んだ−怒った」「楽しげ−悲しげ」「明るい−くらい」など7つの形容詞尺度で構成される第1因子だけで、67 %の分散説明率となった。また選択色についても、和音ごとに選ばれた2色の評定値を平均した上で、和音18種ごとの選択色に対する形容詞尺度10項目の評定値について、2因子が抽出された。ただし、「強い−弱い」「かたい−やわらかい」「重い−軽い」「喜んだ−怒った」の4尺度で構成される第1因子だけで、73 %の分散説明率となった。和音と選択色のどちらの第1因子も高い分散説明率を示したので、和音と色の第1因子の得点を元に、和音18種を散布図にプロットした(図)。2つの第1因子の得点が低い方の和音群は長調でかつ根音のピッチが高く(例:Gの第二転回形、根音587.3 Hz)、高い方の和音群は短調でかつ根音のピッチが低い(例:Am、根音220.0 Hz)傾向が見られた。和音と選択色の第1因子得点間には高い正の相関があった(r = 0.95)。

考 察
 和音と選択色の第1因子得点間には高い正の相関があり、7つの形容詞尺度で表されるような和音の主たる印象表現が、和音の聴取から選択された単色でほぼ可能であることが示されたことになる。これは、和音と選択色を媒介する要因が共通している可能性が高いために生じたと考えられる。今後は、因子分析における第1因子以外の因子も分析することで、和音と選択色を媒介する要因の検討を進め、両者の協応関係の詳細を明らかにしていきたい。

引用文献
Eagleman, D. M., Kagan, A. D., Nelson, S. S., Sagaram, D., & Sarmaa, A. K. (2007). J Neurosci Methods. 159, 139-145.
Palmer, S. E., Schloss, K. B., Xu, Z., & Prado-Leon, L. (2013). PNAS, 110, 22, 8836-8841.
Spence C., (2011). AP& P, 73, 971-995.

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