発表

一般研究発表(ポスター)
2EV-126

教師の経験による理想の教師像・生徒像の違い—SCATを用いた分析による検討—

[責任発表者] 鞠川 由貴:1
[連名発表者] 小野 史典:1
1:山口大学

目 的
これまで,教育現場において,教師や生徒が求める理想の教師像については多くの研究が行われてきた(先行研究)。しかし,教師がどのような生徒像を抱いているかに関する研究は少ない。高木(1983)は教師が描く理想の教師像と生徒像に関する調査を行い,その性差などについて考察している。また,山口・石橋・椙山・中村・佐久間(2009)は,教師が児童・生徒に期待している理想の人間像を調査し,10個の人格特性を見出した。ただし,これらの研究では,経験による違いや変化については明らかでない。教師の経験過程において,各教師が教育や授業,生徒に対してもつ個人的な信念やイメージは変化していくものと考えられる。そこで,本研究では,熟練教師と若手教師を対象にインタビュー調査を行うことで,教師の経験による理想の教師像・生徒像の違いを検討することを目的とする。

方 法
データの収集 研究概要について説明し,同意を得た教師歴38年の男性高校教師(M先生)と教師歴6年目の女性小学校教師(N先生)を対象に,個別に半構造化インタビューを行った。調査は2015年5月に実施した。
調査の手順 理想の教師像・生徒像について,「どんな人物像を描いているか」を尋ねた。具体的な人物像で表現することが難しい場合には,「どのような感じかでもよい」と伝えた上で,望ましいと思う教師や生徒の具体的な行動や態度,指導などについて尋ねた。調査はICレコーダーで録音し,その後その音声データから文字データを作成した。
分析方法 インタビューで得られた回答の内容を,対象者ごとにKJ法(川喜田,1967,1970)を参考に分類した。その中から「理想の教師像」と「理想の生徒像」に関する内容のコメントを分析対象として,さらにSCAT(大谷,2008,2011)を用いて分析した。

結果と考察
理想の教師像 M先生については,“寄り添う教師”としてまとめられた。具体的には,(1)生徒一人ひとりと日常的に密接なコミュニケーションをとること,(2)教師の暖かい眼差しが生徒に実感されるようなメッセージを送り続けることを目的として,日々の面接や学級日誌でのやり取り,家庭訪問を行うなどの取り組みが挙げられる。また,“生徒指導がきちんとできる教師”という発言も見られ,学習指導よりも生徒指導を重視していると言える。一方,N先生については,「いろんな人を見れば見るほど変わる」,「理想がどうとかよくわからん」,「たぶんあるんやろうけど,説明しきらん」などといった発言が多く,理想の教師像について明確に描写できる発言は得られなかった。また,「何を目指していこうかなー,っていう迷いは確かにある」という発言から,教師としての目標に対する手探り感が伺える。言い換えれば,他の教師の影響を受けて断片的な取り入れや修正を繰り返している段階であり,まとまりをもった理想の教師像として統合されていない状態であると言える。なお,一般的な理想の教師像として“授業ができる教師”を挙げており,学習指導における指導力を重視していることが伺える。
理想の生徒像 M先生は,挨拶ができる,掃除ができる,人から頼まれたことがきちんとできるなど,“人としてのモラルや社会性をもった生徒”を理想の生徒像として挙げている。一方,N先生も,“裏表のない素直な自己表現と規範意識をもった生徒”を挙げており,M先生,N先生ともに生徒の内的な側面を重視している点で共通していた。また,学習指導と生徒指導全体を通して,最後まで諦めずにやり抜く“自己統制能力のある生徒”の育成と“継続的な努力ができる生徒”の育成を目指している点でも共通していた。
以上の結果から,理想の教師像と生徒像の違いについて考察すると,まず,教師像については,M先生は明瞭で一貫しているのに対して,N先生は不明瞭で揺らぎやすいという違いが見られた。ただし,この違いが経験の違いによるものなのかどうかについては,対象者を追加して検討する必要がある。一方,生徒像については,それ自体には大きな違いは見られなかった。しかし,M先生は理想の教師像と生徒像とが本質的に一致しており,教師としての目標と生徒の指導目標とに共通性と一貫性があるのに対して,N先生は教師像と生徒像を別々の枠組みとして捉えており,教師としての目標と生徒の指導目標がそれぞれ独立していると言える。このことは,教師のもつ理想の教師像と生徒像の構造が,実際の指導に影響している可能性を示唆するものであり,今後は教師像・生徒像の関係性に着目した検討が求められる。

引用文献
大谷 尚(2008).4ステップコーディングによる質的データ分析手法SCATの提案—着手しやすく小規模データにも適用可能な理論化の手続き— 名古屋大学大学院教育発達科学研究科紀要(教育科学),54, 27-44
大谷 尚(2011).SCAT:Steps for coding and Theorization—明示的手続きで着手しやすく小規模データに適用可能な質的データ分析手法— 感性工学 日本感性工学会論文誌,10,155-160
川喜田二郎(1967).発想法—創造性開発のために— 中央公論社
川喜田二郎(1970).続・発想法—KJ法の展開と応用— 中央公論社
高木秀明(1983).教師の自己像と生徒像 横浜国立大学教育紀要,23,93-110
山口雅史・石橋尚子・椙山美恵子・中村太貴生・佐久間治子(2009).教師が生徒に期待する理想の人間像 椙山女学園大学研究論集(社会科学篇),40,53-62

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