発表

一般研究発表(ポスター)
2EV-072

望まない思考の抑制に与える未来および過去の代替思考の影響

[責任発表者] 小野 史典:1
[連名発表者] 大濱 知佳:2
1:山口大学, 2:山口県精神保健福祉センター

目 的
我々の社会生活においては,その場に関係のない考えを抑制すること(思考抑制)が必要な場面がある。しかしながら,思考の抑制は必ずしも成功するわけではない。例えば,ある事柄について考えないようにしようと思えば思うほど,その事柄が頭の中に浮かんできてしまう現象が知られている(逆説的思考侵入効果, Wegner, Schneider, Carter, & White, 1987)。また,Boden & Baumeister (1997)は,思考を抑制するために,他の事象を考えること(代替思考)の効果を調べた結果,代替思考が望まない思考を抑制することを明らかにした。
木村(2004)は,代替思考の質的な違いによって,思考抑制に違いが生じるか否かを調べた。実験では,苛立った出来事や落ち込んだ出来事といったネガティブな事象(抑制対象)の思考の抑制に対して,ポジティブもしくはネガティブな内容の代替思考を行い,抑制対象の侵入思考数を計測した。その結果,ポジティブな代替思考を与えられた群では抑制対象の侵入思考が低減していたのに対し,ネガティブな代替思考を与えられた群では低減が見られなかった。すなわち,望まない思考を抑制するためには,代替思考の内容を考慮することが重要であり,ネガティブな抑制対象に対してはポジティブな代替思考が効果的であることが示唆された。
しかしながら,我々の日常生活において,代替思考として考えられる内容は,ポジティブ・ネガティブといった感情の違いの他にも,過去・未来といった時間の違いも存在する。例えば,ポジティブな代替思考の場合,過去に起こったポジティブな事象もあれば,今後予定しているポジティブな事象もある。そこで本研究では,思考抑制に与える未来および過去の代替思考の影響を検討する。
方 法
実験参加者 大学生・大学院生48名(平均22.6歳,SD=2.84)。
手続き 参加者は代替思考のない単純抑制群,未来代替思考群,過去代替思考群,統制群の4群に12名ずつ無作為に振り分けられた。参加者は最近経験した落ち込んだ出来事を用紙に記入し,深刻度(「どの程度深刻でしたか?」)を7段階で評定した。その後,単純抑制群には,「今からの3分間,何もせずに静かに座っていて下さい。その間何を考えても構いませんが,今記した落ち込んだ出来事だけは絶対に考えないようにしてください。出来事に関連する事象も一切考えてはいけません。これらを頭から追い出すことは実験において非常に大切ですので,考えないよう最大の努力を払ってください。」と教示した。未来代替思考群と過去代替思考群には,(これからの,もしくはこれまでの)楽しいことを記入してもらい,単純抑制群への教示に次いで,「もしも考えてしまったら,今記入した楽しいことを考えて,一刻も早く落ち込んだ出来事を頭から追い出すようにしてください。」と教示した。統制群には,3分間,何を考えても構わないこと,記入した落ち込んだ出来事について考えてもよいことを教示した。また,全参加者は,落ち込んだ出来事に関連する思考が浮かぶたびに,その数を記録するように求められた。
結 果 と 考 察
深刻度 落ち込んだ出来事の深刻度の平均値を算出し,分散分析を行ったところ,主効果は認められなかった(F(3, 44) = 0.24, ns.)。この結果は,落ち込んだ出来事の深刻度は群間で違いが無いことを示している。
侵入思考数 群ごとに侵入思考数(回数)の平均値を算出した(Figure1)。分散分析の結果,群間の主効果が有意であった(F(3, 44) = 5.16, p < .005)。さらに,統制群は単純抑制群よりも侵入思考が有意に少なかった(p < .05)。この結果は先行研究(Davies & Clark, 1998; Wegner, Schneider, Carter, & White, 1987)と同様,考えないようにしようと思うほど,その事柄が頭の中に浮かんできたことを示している。
未来代替思考群と過去代替思考群と統制群の3群は,単純抑制群よりも侵入思考が有意に少なかった(p < .05)。この結果は,未来代替思考群と過去代替思考群は,望まない思考の抑制を助ける効果があることを示している。
しかしながら,未来代替思考群と過去代替思考群の間で有意な差は認められなかった。そこで侵入思考数を代替思考の時間的方向(未来,過去)ではなく,実験日からの時間的距離(近い,遠い)によって算出した結果,時間的に近い代替思考の参加者は,遠い代替思考の参加者よりも侵入思考が少ない傾向があった(Figure2, t(17) = 1.92, p = .07)。この結果は,代替思考においては,思考抑制を行う時点からの時間的距離が重要であり,時間的距離が近いことでより鮮明にイメージした結果,侵入思考数が減少した可能性を示唆している。
引 用 文 献
Boden, J. M., & Baumeister, R. F. (1997). Repressive coping: Distraction using Pleasant thoughts and memories. Journal of Personality and Social Psychology, 73, 45−62.
木村 晴 (2004). 望まない思考の抑制と代替思考の効果 教育心理学研究, 52, 115−126.
Wegner, D. M., Schneider, D. J., Carter, S. R., & White, T. L. (1987). Paradoxical effects of thought suppression. Journal of Personality and Social Psychology, 53, 5−13.

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