演題

特別ビデオセッション—メスの限界に挑戦した手術—
SV-6

門脈血栓症症例に対して下大静脈門脈吻合を行わざるをえなかった脳死肝移植

[演者] 上本 伸二:1
1:京都大学肝胆膵・移植外科

門脈血栓を有する患者に対して肝移植を行う時には、術前にきちんと移植遂行の可否を判断し、移植可能とした場合には対応策を十分に検討した上で手術に臨まなくてはならない。今回も術前評価を十分に検討したつもりであったが、慢性膵炎の影響による膵頭部周辺の予想を超える強固な癒着に遭遇し、危機的な状況に追い込まれた。症例は62才の男性で、原疾患はNASHによる肝硬変とHCC(大きさ2cmで単発)である。Yerdel分類grade 3の門脈血栓は上腸管膜静脈(SMV)にまで及んでいたが、ジャンピンググラフトを用いたSMVと門脈の再建は可能と評価した。さらに、脾静脈系の側腹血行路が発達して左腎静脈へ流入していたので、もしもSMVが使用できない際には血管グラフトを用いた左腎静脈門脈再建が可能と、2段構えでの対応ができると判断していた。これらの評価のもと脳死肝移植を待機し、脳死ドナーからの全肝を移植できるチャンスにめぐり合えた。レシピエント手術において全肝摘出までは順調に手術が進行した。門脈血栓摘出は不可能であったので膵臓の尾側でのSMV同定の処置に移ったが、非常に強固な癒着のために手術は難渋した。予想以上の硬い組織のためにSMVに流入する複数の枝からの出血のコントロールが困難であり、SMVの露出は不可能と判断し、次善の策である左腎静脈を利用する術式に変更した。ところが、膵頭部背側の癒着も極めて高度であるため、通常は簡単な基本操作であるKocher授動術に難渋し、なかなか下大静脈から左腎静脈へ到達できない。そのうちに脳死肝グラフトの冷保存時間が12時間を超える事態となり、これ以上剥離操作を進める時間はないと判断し、これまでに一度も行ったことのない下大静脈門脈再建に踏み切った。脳死ドナーの腸骨静脈を静脈血管グラフトとして用いた。門脈圧を13~15mmHgにモニターしながら吻合部頭側の下大静脈を絹糸で狭窄させて門脈血流の調整を行った。最終の冷保存時間は13時間、出血流量13,600g、手術時間16時間44分であったが、術後の経過は良好であった。手術時間制限の中で、想定を越える強固な癒着に遭遇した。このような事態の解決には幅広い知識と柔軟な対応が必要であると実感した。
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