演題

DB-10-1

必須

[演者] 中島 淳:1
1:東京大学呼吸器外科

従来は胸腺腫に対しては拡大胸腺全摘術、すなわち腫瘍、胸腺、および前縦隔脂肪組織を郭清する術式が標準的と考えられていた。従来は胸骨正中切開下に胸腺全摘が行われてきたため、技術的にもわざわざ胸腺を一部残す必要性が無かったとも言える。また、重症筋無力症に対する胸腺全摘後に胸腺欠損のために免疫不全をきたしたという事実は見られないため、胸腺の機能温存のために一部胸腺を残す意味もないと思われる。 胸腺全摘をおこなうべきかどうかということについては、胸腔鏡またはロボット手術による胸腺腫切除が多くおこなわれるようになってきたために再び論議が起こってきたことと思われる。 胸腺全摘を行うべき症例として現状でコンセンサスが得られているのは(A) 浸潤型胸腺腫(正岡III期以上):根治のためには他臓器合併切除が必要であるため、胸骨正中切開にてアプローチされる。頻度は少ないながら前縦隔リンパ節への転移の可能性もあり、リンパ節郭清という意味でも全摘の必要性があると思われる。(B) 重症筋無力症を伴う胸腺腫:ただし胸腺腫を伴わない若年者抗アセチルコリン抗体陽性MGの胸腺組織と異なり、胸腺組織は萎縮しており、胸腺全摘の意義は微妙なところである。 ディベートの対象となるのは正岡病期 I 期またはII期の胸腺腫、かつ重症筋無力症を伴わない症例であろう。切除マージンが十分あれば一部胸腺を残してもよいのではないかという意見がある。懸念としては先に示したように(1)局所再発(2)多発胸腺腫の遺残(3)術後発症重症筋無力症があげられる。 (1)(2)の報告は見られるものの頻度は非常に低く、また(3)については、胸腺が遺残した場合に発症の頻度が増加するかどうかについてはエビデンスがない。近年胸腺腫発症患者において他臓器の第2癌発症頻度が有意に高いことが複数の論文で示されているが、胸腺組織が何らかの関与をしている可能性もあり得る。 胸腺一部遺残の正当性を示すためには、長期の経過観察を伴う臨床研究が必要である。JART02(日本胸腺研究会)では第II相試験が行われているが、さらに胸腺部分切除の非劣性を示すためには非常に労力と時間のかかる第III相試験が必要であろう。むしろ胸腔鏡・ロボット手術において胸腺全摘の手術手技を確立するのが現実的ではないだろうか。
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