演題

“メスの限界を求めて”歩んできた道

[演者] 梛野 正人:1
1:名古屋大学腫瘍外科

まず初めに、第115回日本外科学会定期学術集会を開催し会頭講演という大変名誉な機会を与えていただいたことに深甚なる感謝の意を表したい。本講演では、私が最も力を入れて取り組んできた肝門部胆管癌の外科治療について、“メスの限界を求めて“歩んできた道を振り返るとともに、若い先生方へ外科医としてのメッセージをお伝えし、その責を果たしたい。 1980年後半(私が医員であった頃)、肝門部胆管癌に対する肝切除は大変な手術で、出血量は平均4000~5000mL、10000mLを超えることも稀ではなかった。長時間の手術が無事終了しても、種々の術後合併症が高率に発症し、肝不全・多臓器不全が原因で亡くなる方が少なくなく(在院死亡率は10%前後)、安全性向上が重要な臨床的課題であった。この対策として、PTBDによる全肝ドレナージや門脈枝塞栓術などを積極的に行った。その他、外瘻胆汁の返還、Synbiotic療法、術後早期経腸栄養など、手術成績向上のために良かれと思うことは何でもやってきた。安全性向上に取り組むとともに、拡大手術による手術適応拡大や根治性向上にも心血を注いできた。“安全性向上”と“手術適応拡大”は相反する命題ともいえるが、両方を共に達成することを目指さなければ進歩はない、というのが私の一貫した考えである。肝切除に加えて行う合併切除、即ち膵頭十二指腸切除の併施、門脈・肝動脈の切除・再建を積極的に行ってきた。教授就任後は超進行癌に対するHLPD(肝切除+膵頭十二指腸切除+動脈門脈同時切除)にも取り組み、7年生存例を得ている。2001年以降に切除した約600例の成績は、在院死亡率2%、5年生存率40%と、手術適応の拡大にもかかわらず肝門部胆管癌の予後は着実に改善してきている。しかし、リンパ節転移例の予後は5年生存率20%と未だ満足すべきものではなく、適切な術後補助化学療法の確立が急務である。 外科医は手術をすることを本職とする者であるから、若い先生方には是非、手術にこだわっていただきたい。手術手技の向上に務めることは勿論であり、術前・術中・術後管理についていつも考えるべきである。挑戦する姿勢がなければ、“メスの限界がどこにあるのか?”を明らかにすることはできない。腫瘍外科、特に手術の難しい肝胆膵癌を扱う外科医は“切除力”を高める努力が必要であるが、挑戦と無謀は紙一重であることも忘れてはならない。
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