演題詳細

教育講演 / Educational Lecture

教育講演59 (Educational Lecture 59) : ガイドライン(標準治療)

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日程
2013年10月11日(金)
時間
09:30 - 10:00
会場
第11会場 / Room No.11 (札幌市教育文化会館 1F 大ホール)
座長・司会
上田 孝典 (Takanori Ueda):1
1:福井大学医学部 血液・腫瘍内科
 
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腫瘍崩壊症候群

演題番号 : EL-59

石澤 賢一 (Kenichi Ishizawa):1

1:東北大学病院臨床試験推進センター 血液免疫科

 

腫瘍崩壊症候群とは

 白血病において経過中,尿酸の尿中排泄が増加する症例が存在することは19世紀より知られていた。またがん化学療法導入早期より,腫瘍細胞の腎臓への浸潤以外にも尿酸,電解質異常による腎障害の存在が報告された2)。1956年Wintrobeらは白血病の病型ごとに尿中の総尿酸排泄量を測定し,健常人と比較して急性リンパ性白血病(以下ALL)が最も多く,慢性リンパ性白血病(以下CLL)が最も少ないこと,治療開始後白血球数が減少するにつれて尿酸排泄量が増加し,白血球数が正常化すると尿酸排泄量が減少に転じることを報告した3)。その後悪性腫瘍の治療経過中,高尿酸血症のみならず高リン血症,低カルシウム血症,高カリウム血症が出現し,腎不全,不整脈などを合併し重篤な状態に至る症例が報告された。これらの代謝異常は造血器腫瘍,特に化学療法に感受性が高いバーキットリンパ腫で発生頻度が高く,詳細な臨床経過の検討が実施され,腫瘍崩壊症候群(tumor lysis syndrome,以下TLS)の概念が確立した4, 5)
 TLSは,腫瘍細胞の急激かつ大量の崩壊により細胞内物質が急激に細胞外に放出され,その代謝産物量が生体の処理能力を超えた結果,高尿酸血症,高カリウム血症,高リン血症,低カルシウム血症が出現し,腎不全,けいれん発作,不整脈による突然死をきたすものである。早急な治療介入が必要で時として致死的であるため“oncologic emergency”の一つとされている5)

腫瘍崩壊症候群の病態

 核酸の代謝過程において,プリン体はキサンチンを経て最終的に尿酸となり,尿中に排泄される。腫瘍が崩壊し大量の核酸が放出された場合,大量の尿酸が生成し高尿酸血症となり尿中の尿酸濃度が上昇する。酸性環境下では尿酸の溶解度が低下するため,溶解度を上回った過剰な尿酸は結晶化し尿細管に析出沈着し,尿細管閉塞により腎障害をきたす。また結晶沈着はTNF-α6),monocyte chemoattractant protein-1,macrophage inflammatory protein-27),IL-68)の産生誘導を介して局所的な炎症を惹起して腎障害を助長する。このような尿酸結晶生成を介した腎障害以外にも尿酸の直接作用として,レニン-アンギオテンシン系の活性化,血管内皮細胞のNOレベル低下が知られており,その結果腎血管収縮,腎血流量低下をきたし,腎障害の一因になると推察されている9)
 細胞内のカリウム濃度は細胞外の約30倍であり,リン酸の濃度も腫瘍細胞内では細胞外の約4倍と推定されている。したがって大量の腫瘍細胞の破壊により血中に大量のカリウム,リン酸が放出されるため,高リン血症,高カリウム血症となる。過剰なリンはカルシウムと結合してリン酸カルシウム結晶を形成し,低カルシウム血症を惹起する。リン酸カルシウム結晶は腎臓に沈着して腎障害の一因となり,低カルシウム血症は筋痙攣を誘発,心筋収縮能を低下させ,高カリウム血症とともに不整脈の原因となる。心機能低下や腎障害は,高尿酸血症,高サイトカイン血症,高リン血症を増悪させ,さらに心機能低下,腎障害が進行する。つまり心機能低下,腎不全と電解質異常の悪循環がTLSの本態である(Fig. 1)。

腫瘍崩壊症候群の定義

 TLSの定義は必ずしも明確ではなかったが,Hande-Garrowによって提唱され10),Cairo-Bishopが改変した臨床検査値異常に基づくTLS,Laboratory TLS(以下LTLS)と,LTLSに加えて生命を脅かす腎不全,不整脈,けいれんが出現しており,直ちに積極的な治療介入が必要なClinical TLS(以下CTLS)に大別する分類が広く受け入れられている11)(Table 1)。
 LTLSは当初,Hande-Garrowによりリン,カリウム,尿酸,BUNの25%上昇,カルシウムの25%低下の電解質異常が,治療開始後4日間以内に二つ以上認められた場合と定義された。しかしすでに正常範囲を大きく逸脱している症例に関して25%の変動の確認は臨床的意義が低いこと,治療開始前より腫瘍崩壊症候群を併発している症例,治療開始5日目以降発症症例の評価ができないことなどの問題があった。そこでCairo-Bishopの定義では,電解質異常として尿酸,カリウム,リン高値,あるいはベースラインと比較して25%の上昇,カルシウムの低値,あるはベースラインと比較して25%の低下が2項目以上,治療開始前3日前から開始後7日目までに認められた場合とされた。さらに“an expert TLS panel consensus”では,正常範囲内での25%の変動の臨床的意義も低く,カルシウムの変動はリンの変動によるものとして,尿酸,カリウム,リンのうち二つが正常上限を超えている場合LTLSと定義した(Table 2)12)。一方Howardらは,臨床症状を有する低カルシウム血症の重要性を考慮して,高尿酸,高カリウム,高リン,低カルシウムのうち,二つの異常でLTLSと定義した13)。以上LTLSに関しては,定義がそれぞれ微妙に異なっているが,実臨床の立場ではベースラインからの変動を考慮するのはやや煩雑であり,an expert TLS panel consensusあるいはHowardらの定義が簡便であると考えられる。

腫瘍崩壊症候群の発生頻度

 HandeとGarrowらは,非ホジキンリンパ腫102例の症例報告をまとめ,LTLSが42%,CTLSが6%認められたと報告した10)。B-ALL,進行期NHLを対象としたドイツを中心とした多施設共同試験NHL-BFM90,95の解析では,B-ALLで26.4%,バーキットリンパ腫で14.9%のTLSが認められた14)。成人AML772例を対象とした解析では,TLSの発生頻度は17%(CTLS:5%,LTLS:12%)であった15)。しかしこれまでのTLSの発生頻度に関する報告は,症例報告のレビュー,臨床試験における解析などであり,解析対象とした年代によりTLSの定義,原疾患に対する治療法,TLSの予防法が異なっているため,正確な頻度は不明である。

腫瘍崩壊症候群のリスク分類

 TLSの最良の管理は,予防である。TLS発症のリスクファクターとしては,疾患,腫瘍量,腎機能,尿酸,疾患特異的治療が知られていたが,それらをどのように組み合わせてTLS発症リスクを評価するかは明確ではなかった。Rasburicaseの臨床導入によりTLS予防法の選択肢が広がったこともあり,幅広い疾患に適応可能なTLSのリスク評価システムの必要性が強く認識された。2010年,これまでのTLSガイドライン16)を発展させた形で“an expert TLS panel consensus”が公表され,そのリスク評価システムが現在広く用いられている12)
 “an expert TLS panel consensus”のTLSのリスク評価は,“LTLSの有無”,“疾患,腫瘍量”,“腎機能,腎浸潤の有無”の3段階で実施される。まずLTLSの有無が検討される。LTLSが合併していれば,CTLSの有無が検討される。LTLSが合併していない場合,年齢,腫瘍のタイプ,腫瘍量などにより,TLSの発症頻度が1%未満の低リスク疾患(low risk disease:以下LRD),1~5%の中間リスク疾患(intermediate risk group:以下IRD),5%を超える高リスク疾患(high risk group:以下HRD)に分類する。HRDはそのまま高リスク(HR)となるが,LRD,IRDに関しては,最終的に腎機能,腎浸潤の有無でリスクを調整して低リスク(low risk:以下LD),中間リスク(intermediate risk:以下ID),高リスク(high risk:以下HD)が決定され,リスクに応じた予防法が選択可能となる。以下各ステップに関して,概説する。
1)LTLSの有無の検討
 尿酸,カリウム,リン酸のうち二つ以上が化学療法開始3日前から7日後までに正常上限を超えている場合,LTLSと診断される。カルシウム低下はこの診断基準には含まれていないが,臨床上重要なのでその測定は必須である。
 LTLSに加え,腎不全(クレアチニンが正常上限の1.5倍を超える),不整脈/突然死,ケイレンのいずれかが認められた場合,CTLSと診断され,ICU管理下で強力な治療介入が必要となる。LTLSの場合は,後述の高リスク群の予防措置が推奨される。
 LTLSが認められない場合,各疾患のリスク評価,腎機能に応じたリスクの調整を実施する。

2)疾患,腫瘍量の評価
①固形腫瘍
 基本的にはLRDに分類される。例外はバルキー病変を有する神経芽細胞腫,胚細胞腫,小細胞肺がんは化学療法に対する感受性が高いためIRDに分類される(Fig. 2)。
 しかし近年sunitinib17),sorefenib18),cetuximab19)などの分子標的薬の臨床導入によりTLS発症の報告が増加しており,今後治療法も加味したリスク評価が必要になるかもしれない。造血器腫瘍と異なり治療開始後10日以上経過してからTLSが発症する症例もあり18, 20, 21),“an expert TLS panel consensus”が提唱しているTLSの評価期間“化学療法開始3日前から7日後”が妥当なのか,今後の臨床データの集積が待たれる。
②骨髄腫
 骨髄腫は,化学療法に対する感受性は低くLRDに分類される。造血幹細胞移植を組み込んだ強力な治療が実施されたコホートでもTLSの発症頻度は約1%である22)。骨髄中の腫瘍細胞の増加,白血化,未熟な腫瘍細胞の増加,染色体異常(del(13))がTLSのリスク因子として示唆された。
 しかし近年ボルテゾミブ23, 24),レナリドミドなどの新規分子標的薬の臨床導入により,TLSの報告は増加傾向にある。再発,難治多発性骨髄腫59例に対するボルテゾミブ療法で,17例でTLSが発症したとの報告がある25)。本邦の市販後調査では,TLSの発症頻度は5%であった26)。今後TLSの発症頻度が増加することが予想され,これらの新規薬剤使用時にはIRDと分類したほうが安全かもしれない。固形腫瘍と同様に,今後のTLSの発症頻度の推移を注意深く観察する必要がある疾患である。
③慢性白血病
 慢性骨髄性白血病:慢性骨髄性白血病の慢性期はLRDに分類される。移行期,急性期ではチロシンキナーゼ阻害剤を使用した場合でもTLSの報告があり,後述の急性白血病に準じた対応が必要である。
 慢性リンパ性白血病:慢性リンパ性白血病は,治療法によりリスク分類が異なる。アルキル化剤による治療の場合,LRDに分類されるが,白血球が増多している症例にフルダラビンやリツキシマブなどの生物学的製剤を使用する場合,IRDとみなされる。
④急性白血病
 急性白血病は,急性骨髄性白血病,急性リンパ性白血病,バーキットリンパ腫/白血病に大別される。急性骨髄性白血病,急性リンパ性白血病では,白血球数でリスク分類を実施し,その後LDHの上昇の有無で調整する。バーキットリンパ腫/白血病は,検査データ如何に関わらずHRDと分類される。 急性骨髄性白血病:白血球数10万以上はHRD。白血球数2.5万以上10万未満はIRD。白血球数2.5万未満の場合,LDHが正常上限の2倍以上であればIRD,2倍未満であればLRDに分類される。
 急性リンパ性白血病:白血球数10万以上はHRD。白血球数10万未満の場合,LDHが正常上限の2倍以上であればHRD,2倍未満であればIRDに分類される。
 バーキットリンパ腫/白血病:検査データによらずHRDと分類される。
⑤悪性リンパ腫
 悪性リンパ腫は病理組織型により,TLSの発症リスクが大きく異なる。“an expert TLS panel consensus”では,低リスクの組織型,年齢,腫瘍量,LDHによりリスクが変わる組織型,高リスクの組織型の三つに大別し,それぞれでリスク評価を実施する。
a)低リスク組織型
 ホジキンリンパ腫,小リンパ球性リンパ腫,濾胞性リンパ腫,マージナルゾーンB細胞リンパ腫,MALTリンパ腫,マントル細胞リンパ腫(blastoid variant以外),皮膚T細胞リンパ腫:基本的に臨床病期,LDHの値によらずLRDに分類される。
 未分化大細胞リンパ腫:年齢に応じてリスク分類が異なる。成人では,臨床病期に関わらずLRDに分類される。小児では臨床病期I/II期はLRD,III/IV期はIRDに分類される。
b)年齢,腫瘍量,LDHによりリスクが変わる組織型
 成人T細胞白血病/リンパ腫,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫,末梢性T細胞リンパ腫,病理組織学的進展例,マントル細胞リンパ腫(blastoid variant):これらの組織型は,成人と小児で扱いが異なる。成人では,臨床病期はリスク分類に関与せず,LDHとバルキー病変の有無でリスクが決定される。LDHが正常範囲内であればLRD,LDHが上昇している場合バルキー病変がなければIRD,バルキー病変を有する場合HRDに分類される。小児では,バルキー病変の有無はリスク分類には関与せず,臨床病期とLDHでリスク分類がなされる。臨床病期I/II期はLRD,臨床病期III/IV期の場合LDHが正常上限の2倍未満であればIRD,2倍以上であればHRDに分類される。LDHの閾値が正常上限の2倍で成人の場合と異なる点,注意が必要である。
c)高リスク組織型
 バーキットリンパ腫/白血病,リンパ芽球性リンパ腫: 臨床病期とLDHによりリスクが決定する。限局期の場合,LDHが正常上限の2倍未満であればIRD,2倍以上であればHRDとなる。進行期の場合,LDHの値に関わらずHRDに分類される。

3)腎機能によるリスクの調整
 LRDとIRDに関しては,腎機能によるリスク調整が実施され,最終的なリスクカテゴリーが決定される。
LRD:対応は,疾患により異なる。固形腫瘍,骨髄腫は化学療法低感受性と認識されているため,腎機能に関わらずLRとなる。リンパ腫,白血病の場合,腎機能低下あるいは腎浸潤が確認されればIR,腎機能が正常であればLRに分類される。
IRD:腎機能低下あるいは腎浸潤が認められる場合HRとなる。腎機能が正常な場合,尿酸,リン酸,カリウムのいずれかが上昇している場合はHR,三ついずれも正常範囲内の場合はIRとなる。

腫瘍崩壊症候群の予防処置

 TLSの管理で最も重要なことは,対象症例のTLS発症リスクを的確に評価して,リスクに応じた適切な予防処置を実施することである。最初に代表的な予防処置の特徴を概説し,その後リスクごとに推奨されている予防処置を提示する。
1)TLSの予防処置
①補液
 TLS予防の基本的な処置である。尿量を維持することにより,尿酸,リン酸の排泄を促す。大量補液の場合,補液量は3000ml/m2/日が目安で,尿量100ml/hの確保を目標とする。補液はカリウム,リン酸を含まないものが基本で,電解質を測定しながら調整する。利尿が不十分な場合,閉塞性尿路障害,脱水がなければループ利尿薬,マニトールを使用する。尿アルカリ化は,リン酸カルシウムの溶解度が低下して結晶析出の可能性が増加するため,TSL予防目的では推奨されない。
②尿酸生成抑制薬
 尿酸生成抑制薬としては,現在allopurinol,febuxostatの二つが使用可能であるが,TLSの治療,予防としての使用は保険適応外である。
a)Allopurinol
 allopurinolはキサンチン誘導体で,薬理学的活性を有する代謝産物はオキシプリノールである。尿酸低下作用は,オキシプリノールがキサンチンオキシダーゼを阻害する事により,ヒポキサンチンからキサンチン,キサンチンから尿酸への転換が抑制されることによる(Fig. 2)。しかし尿酸に対する直接の効果は無く,尿酸低下まで時間を要するため,化学療法開始1~2日前からの使用が推奨される。またヒポキサンチン,キサンチン濃度上昇によるキサンチン腎症の誘引となる可能性を考慮しなければならない。腎機能低下時には,用量調整が必要となる。
 薬物相互作用としてmercaptopurine hydrate,azathioprine,ciclosporin,phenytoin,キサンチン系薬剤(theophyllineなど)の血中濃度を上昇させること,クマリン系抗凝血薬の作用を増強すること,cyclophosphamide hydrateによる骨髄抑制を増強する可能性があることなどが知られている。TLS予防に対する使用歴は古く27),欧米では静注製剤も使用されているが28),本邦では未承認である。
b)Febuxostat
 Febuxostatは非プリン型のキサンチンオキシターゼ阻害剤で,1日1回投与で優れた尿酸低下作用を持つ29)Fig. 2)。Allopurinolと同様に化学療法開始1~2日前からの使用が望ましい。腎で代謝されることが少ないために,軽度~中等度の腎機能障害時でも用量調節が不要で安全性が高く30),TLS予防の効果が期待されるが,化学療法に伴う高尿酸血症を対象とした臨床試験は報告されていない。またmercaptopurine hydrate,azathioprineは併用禁忌となっている。
③尿酸分解酵素薬
 尿酸分解酵素の使用歴は古い。Aspergillus flavus由来の天然型尿酸分解酵素薬Uricozymeは,すでに1960年代より散発的な使用の報告があり31),1975年にフランス,1984年にイタリアで市販開始となり,ヨーロッパを中心に一般臨床で広く使用された32)。このような事情と疾患の重篤性が相まって比較試験が実施されにくい状況となり,TLS領域におけるエビデンスが不十分であることの一因となっている。その後遺伝子組み換え型尿酸分解酵素薬rasburicaseの開発が進み,米国食品医薬品局は2002年7月,“抗腫瘍薬の投与により腫瘍崩壊とそれに続く血漿中尿酸上昇が起こることが予期される白血病,リンパ腫,固形腫瘍を有する小児患者の血漿尿酸値の初期管理”を適応として承認した。また2009年10月,小児と同様の適応で成人に関しても承認した。本邦でも“がん化学療法に伴う高尿酸血症”の適応で,TLS予防に使用可能である。
 rasburicaseはウレートオキシダーゼの遺伝子組み換え型タンパクで,その尿酸低下作用は,尿酸に直接作用して尿酸をより水溶性の高いアラントインに変換することによる(Fig. 2)。アラントインは速やかに腎臓より尿中に排泄されるため,尿酸のみならず,ヒポキサンチン,キサンチンなどの核酸の代謝産物を体内より速やかに除去することが可能となり,腫瘍崩壊症候群の予防,治療に期待されている薬剤である33, 34)。本邦で実施された臨床試験でも,投与開始後4時間で,尿酸は速やかに低下し,化学療法開始後も尿酸のコントロールは良好であった35, 36)。有害事象は,酵素製剤であるため過敏反応,抗体産生,肝酵素上昇などが報告されている。また再投与に関しては,安全性が確認されておらず承認されていない。G6PD欠損症例への投与は禁忌である。

2)Allopurinolとrasburicaseの比較試験
 Allopurinolとrasburicaseの有効性に関しては,2本の比較試験が実施された。主に小児のステージIII,IVの非ホジキンリンパ腫,白血球数25,000/μl以上の急性リンパ性白血病あるいは尿酸値8mg/dl以上の高尿酸血症患者を対象とした試験では,化学療法開始前よりrasburicase 0.20mg/kgあるいはallopurinol 300mg/m2/日を5~7日間投与すれデザインで実施され,薬剤投与後0時間から96時間までの尿酸のAUC(AUC0-96)の比較を主要評価項目とした。生後3ヶ月から17歳までの52名が登録され,尿酸値正常例ではrasburicase群,allopurinol群の投与開始4時間の尿酸値は0.78mg/dl,3.92mg/dl,AUC0-96は107.9mg/dl・h,265.9mg/dl・h。尿酸値上昇例では投与開始4時間の尿酸値は各々1.35mg/dl,8.8mg/dl,AUC0-96は162.4mg/dl・h,440mg/dl・hで,尿酸正常例,尿酸上昇例共に,allopurinol群と比較してrasburicase群の速やかな尿酸値コントロールと尿酸AUC減少が示された。rasburicase群では原因不明の溶血が1例,allopurinol群では高リン血症のため1例透析が必要であった37)
 成人のTLS高リスク患者を対象とした第III相試験は,rasburicase 0.20mg/kgを第1日目~5日目まで投与,rasburicase 0.20mg/kgを第1日目~3日目まで投与しallopurinol 300mg/日を第4日目~5日目に投与,allopurinol 300mg/日を第1日目~5日目まで投与の3群を比較するデザインで実施され,第3日目から7日目までの尿酸が7.5mg/dl以下に維持される割合を主要評価項目とした。Rasburicase群92例,rasburicase+allopurinol群92例,allopurinol群91例が登録され,各群の尿酸のコントロールが成功した割合は,87%,78%,66%で,allopurinol群と比較してrasburicaseを含む群が優位に良好であった38)(Fig. 3)。
 これらの試験はいずれも尿酸コントロールを主要評価項目としており,その点に関してはrasburicaseが allopurinolを有意に上回ったが,TLS発症予防に関しては明確な結論は得られていない。

3)Rasburicaseの投与日数
 承認用法用量は0.2mg/kg点滴静注で最大7日間までとなっており,これまでの臨床試験の多くは5日間投与で実施された。現時点で適切な投与日数は明らかではないが,最近0.15mg/m2 5日間投与と1日投与を比較する第II相試験の結果が報告された39)。各群それぞれ40症例が登録され,5日投与法ではすべての症例で尿酸値コントロールが出来たが,1日投与法では6症例でrasburicaseの追加投与を要した。追加投与症例はすべてTLS高リスクの症例であった。TLS高リスクの症例の一部では1日投与法で尿酸値のコントロールが不十分である可能性がある。実臨床ではTLS高リスク症例には1回投与して,その後検査データの推移を厳重に観察しながら必要に応じて追加投与するのが実際的であろう。

2)リスク別の予防法12~16)(Table 3
①低リスク
 通常量の補液と,1日1回のモニタリング(電解質,腎機能等,水分のIn/Out)を実施する。基本的に尿酸生成抑制薬は不要であるが,電解質異常の兆候が認められる場合,バルキー病変,進行期,増殖の速い腫瘍の場合は投与が推奨される。
②中リスク
 大量補液と尿酸生成抑制薬を投与し,8~12時間毎にモニタリング(電解質,腎機能等,水分のIn/Out)を実施する。これらの予防法開始後も尿酸値が上昇傾向にある場合,rasburicaseの投与が推奨される。
③高リスク
 大量補液とrasburicaseを投与し,ICUまたは同レベルの管理下で4~6時間毎にモニタリング(電解質,腎機能等,水分のIn/Out,心電図)を実施する。

ま と め

 各疾患で,今後治療法の進歩によりTLSのリスクが増加する可能性があり,がん薬物療法においては,常にTLSを念頭に置いた対応が必要である。さらにrasburicaseの臨床導入により尿酸のコントロールが比較的容易になったため,TLSが尿酸中心からリン酸中心になるなど質的な変化が予想される40)。現在公表されているTLSのリスク分類とその予防法のガイドラインは,“専門家の合意”という形態をとっていることからも明らかなように,必ずしも十分なエビデンスは存在しない。今後その妥当性の継続的な検証が必要である。

謝  辞

 本論文は,日本臨床腫瘍学会腫瘍崩壊症候群ガイダンス作成委員会での議論によるところが大きい。作成委員の河野勤先生(杏雲堂病院),桐戸敬太先生(山梨大学),徳平道英先生(埼玉医科大学総合医療センター),永井宏和先生(名古屋医療センター),湯坐有希先生(東京都小児総合医療センター),葉清隆先生(国立がん研究センター東病院),日本臨床腫瘍学会ガイドライン委員会委員長室圭先生(愛知県立がんセンター)に深謝します。

文  献
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東北大学病院 臨床試験推進センター 血液免疫科

Fig.1 Pathogenesis of TLS
Fig.2 Mechanism of action: rasburicase and allopurinol
Fig.3 Plasama uric acid profile(Ref. 38)
AUC: area under the plasma concentration,
ALLP: allopurinol, RSB: rasburicase

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