演題詳細

教育講演 / Educational Lecture

教育講演32 (Educational Lecture 32) : プログレス

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日程
2013年10月11日(金)
時間
11:00 - 11:30
会場
第12会場 / Room No.12 (札幌市教育文化会館 1F 小ホール)
座長・司会
塚崎 邦弘 (Kunihiro Tsukasaki):1
1:国立がん研究センター東病院 血液腫瘍科
 
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ATLプログレス2013

演題番号 : EL-32

石塚 賢治 (Kenji Ishitsuka):1

1:福岡大学医学部 腫瘍・血液・感染症内科学

 

I.はじめに

 成人T細胞白血病・リンパ腫(adult T-cell leukemia/lymphoma; ATL)は,1977年に内山,高月らにより西南日本に多発するT細胞腫瘍として提唱され1),その後原因ウイルスとしてhuman T-lymphotropic virus type I (HTLV-1)が同定された2)。HTLV-1はATLのほか,HTLV-1関連脊髄症/熱帯性痙性麻痺(HTLV-1 associated myelopathy/tropical spastic paraparesis; HAM/TSP)の原因となる。ATL,HAM/TSPの発症はHTLV-1キャリアの生涯でそれぞれ3~5%,0.25%とされるが,同一ウイルスが全く異なる疾患を引き起こす原因について,キャリア側のウイルスに対する免疫応答の違い,HLAハプロタイプの違い,ウイルス側の相違が示唆されている3~5)
 ATLの発症年齢は,2001年に報告された第9次ATL全国実態調査当時では発症年齢平均値61歳であったが,2010年に報告された厚生労働科学研究費「本邦におけるHTLV-1感染および関連疾患の実態調査と総合対策(研究代表者:山口一成)」研究報告書によると患者の高齢化が進み発症年齢中央値67歳であった6)。これは生年を追うごとにHTLV-1キャリア数が減少しているために,高齢者ほどHTLV-1キャリアの割合が高くなっているためと考えられる。

II.ATLの病型分類

 JCOGリンパ腫グループ(JCOG-LSG)は全国実態調査で集められた1984年から1987年に診断された854名のATL患者のデータから,急性型,リンパ腫型,慢性型,くすぶり型の4臨床病型を提唱し7)(Table1Fig.1),さらに慢性型を3つの予後不良因子(LDHが施設正常値上限を超える,BUNが施設正常値上限を超える,血清アルブミンが施設正常値下限を下回る)のいずれか一つでも有するかどうかによって亜分類した8)。この分類は現在も世界的に広く使用されている。
 急性型,リンパ腫型,予後不良因子を有する慢性型ATLをaggressive ATL,予後不良因子を有さない慢性型ATLとくすぶり型ATLをindolent ATLとし,これらの2群は異なる治療戦略がとられる。
 我々は全国の血液内科診療施設と共同で2000年1月から2009年5月に新たに診断されたATL患者の後ろ向き調査を実施した(ATL-prognostic index (ATL-PI)プロジェクト)。約1,500例のATL症例の病型別の生存曲線をFig.2に示す。

III.ATLの予後因子(Table2

 前述の1980年代の全国調査の結果から,全ATL患者の予後因子としてperformance status (PS),年齢,血清LDH,総病変数,血清Caが同定された。病型を組み入れた多変量解析では,臨床病型,PS,LDH,年齢,BUNが抽出された。病型ごとの予後因子の多変量解析では,急性型ではPS,LDH,年齢,BUN,リンパ腫型ではPS,慢性型ではLDH,BUN,アルブミン,くすぶり型ではBUNが抽出された9)
 北米で1992年から2007年に診断された全病型89例の解析では,PS,病期,年齢,血清Caが予後因子として決定され,これらの組み合わせから3群にリスク分類することが提唱された(ATL prognostic score; APS)10)
 ATL-PIプロジェクトでは,急性・リンパ腫型ATL 1,270例から同種造血幹細胞移植(同種移植)を受けた症例,診断の誤りや重複例を除いた807例の情報から急性・リンパ腫型ATLの予後因子を開発した。病期,PS,年齢,血清アルブミン値,血清可溶性インターロイキン-2受容体値の5つを予後因子として決定し,算術式から低リスク,中間リスク,高リスク群の3群に分類するATL-PIを決定した。さらにスコア化することによって臨床的に用いやすくしたsimplified ATL-PIでのこれら3群のMSTはそれぞれ16.2ヶ月,7.0ヶ月,4.6ヶ月,2年生存割合は37%,17%,6%であった(Fig.3)11)
 ATL-PIは,同一集団にDLBCLの予後因子モデルであるIPI12)や末梢性T細胞リンパ腫の予後因子モデル13)を適応した場合より明瞭に層別化が可能であった。また,全病型を対象にしたAPSと比べても,ATL-PIはより類似した予後をもつ急性型・リンパ腫型だけの患者を明瞭に層別化することを可能とした。

IV.ATLの治療(Fig.4

1.Aggressive ATL (急性型・リンパ腫型・予後不良因子を有する慢性型)
 ATL-PIプロジェクト登録患者の生存期間中央値は,急性型,リンパ腫型,予後不良因子を有する慢性型でそれぞれ8.3ヶ月,10.6ヶ月,24.4ヶ月,4年全生存割合は11.4%,16.2%,29.4%であった14)。1980年代の全国調査での急性型,リンパ腫型の生存期間中央値は6.2ヶ月,10.2ヶ月,4年全生存割合は5.0%,5.7%であった7)。この2つの全国調査の結果を比べると,生存期間中央値に大きな変化はないが,4年全生存割合は2倍以上に向上していることになる。ATL-PIプロジェクトで同種移植が行われなかった症例だけで解析すると,生存期間中央値と4年全生存割合は,急性型,リンパ腫型でそれぞれ6.8ヶ月,9.8ヶ月と6.8%,13.2%で,リンパ腫型では同種移植を受けていない患者でも4年全生存割合の大きな改善がみられている(Table3)。このことは,状態が悪く十分な初期治療ができないような症例や強力な多剤併用化学療法によっても治療初期から病勢コントロール困難な症例は,最近でも予後の改善は得られていないが,初期治療に成功した症例では,化学療法や支持療法の進歩,特に急性型では同種移植の導入によって,長期予後が改善していることを示していると考えられる。

(1)多剤併用化学療法
 Aggressive ATL治療の第一選択である。VCAP-AMP-VECP(ビンクリスチン+シクロホスファミド+ドキソルビシン+プレドニゾロン-ドキソルビシン+ラニムスチン+プレドニゾロン-フィルデシン+エトポシド+カルボプラチン+プレドニゾロン)療法はJCOG-LSGで実施された二つの臨床試験でその有用性が確認されている。VCAP-AMP-VECP療法の第II相試験(JCOG9303)での生存期間中央値は13.0ヶ月であった15)。引き続いて行われたVCAP-AMP-VECP療法とCHOP(ビンクリスチン+シクロホスファミド+ドキソルビシン+プレドニゾロン)14療法の第III相比較試験(JCOG9801)での生存期間中央値はVCAP-AMP-VECP療法群,CHOP14療法群でそれぞれ12.7,10.9ヶ月,3年全生存割合とCR割合はVCAP-AMP-VECP療法とCHOP14療法でそれぞれ23.6%と12.7%,40%と21%でVCAP-AMP-VECP療法が優れる傾向にあったことから,VCAP-AMP-VECP療法がAggressive ATLに対する標準治療と位置づけられた16)。しかしながら,VCAP-AMP-VECP療法は骨髄抑制などの毒性が強く,ほとんどの症例でgranulocyte colony stimulating factor製剤の投与を要するため,医療機関へのアクセスが悪い場合や高齢者には導入しにくくCHOP療法が汎用されている。ATL-PIプロジェクト登録症例では,CHOPあるいはCHOP類似の治療が約50%,VCAP-AMP-VECP療法が約30%の患者で実施されていた。また,CHOP21はCHOP14,VCAP-AMP-VECP療法と比べ高齢者に多く実施されていた14)
 ATLの10~25%の症例で中枢神経浸潤がみられることが知られており,上記JCOG臨床試験ではシタラビンとメトトレキサート,プレドニゾロンの予防的髄腔内投与が行われたが,ATLに対する初回化学療法時の中枢神経浸潤予防は標準治療と考えられる。

(2)単剤化学療法
1)エトポシド単剤療法
 高齢者など多剤併用化学療法不耐例や,多剤併用化学療法後の維持療法,再発後の緩和的化学療法として使用される。またLDH上昇があるためにaggressive ATLに分類されるが病変が皮膚に留まり緩慢な経過をとる症例などにも使用される。25mg/day連日投与が行われることが多く,一部の症例で有効例がみられるが,それを証明した前向き臨床試験はない。
2)ソブゾキサン単剤療法
 第I/II相臨床試験では,評価可能23例(うち17例は未治療例)中,PR以上が10例に観察されている17)。現在はエトポシド単剤療法と同様の位置付けとして使用される場合が多い。ソブゾキサン1,600mg/dayの5日間投与を2~3週毎に行うが,再発後の緩和的化学療法として行う場合は骨髄抑制などの有害事象に応じて減量を行う。

(3)同種造血幹細胞移植
 自家移植は早期再発が多く有効性は否定されている18)。同種移植により25~40%の患者に長期生存が得られる19~21)。患者背景の違いは考慮しなければならないが,同種移植を受けなかった患者の長期生存が約10%であることを考えると非常に良好であり,日常臨床においては全身状態良好でドナーが存在する患者に対しては積極的に同種移植を考慮する。HTLV-1キャリアの高齢化に伴い,高齢であることから骨髄破壊的造血幹細胞移植の適応から外れる患者が多いが,骨髄非破壊的造血幹細胞移植は骨髄破壊的造血幹細胞移植と遜色のない治療成績が得られるようになってきた。日本造血幹細胞移植学会登録データでの後ろ向き解析によると,骨髄破壊的前処置と骨髄非破壊的前処置を比較し,全生存期間に違いはないが,前者では治療関連死が,後者ではATL関連死が多いという傾向がみられ,高齢者では後者のOSが良好であったことが示されている22)
 ATL-PIプロジェクト登録症例では,65歳以下の急性型・リンパ腫型患者の3割に同種移植が行われ,その年齢中央値は52歳,移植後の生存期間中央値は6.2ヶ月,5年生存割合は26%であった。ドナーは血縁,非血縁がほぼ同数,臍帯血移植は16%に行われていた。移植後の生存期間は移植前のATLのコントロール状況によって大きく異なり,初回寛解例,初回治療抵抗例,初回再発後例で,それぞれの生存期間中央値は22.0,3.5,3.2ヶ月であり,初回寛解例以外での成績は著しく悪い14)

2.indolent ATL (予後不良因子を有さない慢性型・くすぶり型)
 本邦ではindolent ATLは,aggressive ATLに急性転化するまで無治療経過観察を行う。しかし,無治療経過観察が行われたくすぶり型と慢性型ATL90例の中で,観察期間中央値4.1年時点で生存期間と無増悪生存期間の中央値はそれぞれ4.1年と3.3年であった23)。これはATL-PIプロジェクトでもほぼ同様で,生存期間中央値はくすぶり型,予後不良因子のない慢性型,予後不良因子を有する慢性型でそれぞれ,36.7ヶ月,未到達,24.4ヶ月であった。また,全身化学療法開始までの中央値はそれぞれ20.3ヶ月,61.2ヶ月,2.0ヶ月であり14),くすぶり型の予後はこれまで考えられてきたものより明らかに不良であり,治療戦略の開発が必要である。
 Indolent ATLのなかで皮膚が病変の首座となる場合は,副腎皮質ステロイド剤の外用,psoralen plus ultraviolet A light therapy (PUVA)療法やナローバンドUVB療法,電子線やX線による放射線療法,インターフェロンガンマ療法などの皮膚指向性治療が行われる。これらの治療は皮膚病変に対しては有効であるが,生存期間の改善に貢献するエビデンスはなく症状緩和の手段と考えられる24)

3.海外でのATL治療
 海外のATL治療の本邦との相違は,インターフェロンα/ジドブジン(IFN/AZT)療法が,急性型,慢性型,くすぶり型ATLに対する標準治療とみなされている点である25, 26)。これは,海外でのいくつかの小規模な報告やIFN/AZT療法と化学療法を比較した後ろ向き調査で,急性型にはIFN/AZT療法が化学療法より優れ,リンパ腫型では化学療法がIFN/AZT療法より優れていたこと,慢性型,くすぶり型ATLでは初回治療にIFN/AZT療法を受けた患者が化学療法を受けた患者より予後が良好であったことによる(Fig.5)27)。しかし,IFN/AZT療法が化学療法より優れるとされる急性型の海外での化学療法による治療成績は,JCOG臨床試験や日常臨床として治療されたATL-PIプロジェクト登録患者での日本での成績と比較し著しく悪い。また,我々が実施した化学療法後の再発・難治急性型ATLに対するIFN/AZT療法のパイロット試験は極めて小規模ではあったが,抗ATL効果は確かに観察されたものの,寛解に至らしめるほどのパワーはなかった28)。これらのことから,急性型ATLに対しては本邦でIFN/AZT療法を検討する必要はないと考えられる。慢性型,くすぶり型ATLについても科学的な妥当性が保証されてはいない29)。しかし単純に比較すると,海外でIFN/AZT療法を受けた患者の予後は,本邦の慢性型,くすぶり型ATL患者の予後よりはるかに良好である。そこでJCOG-LSGでは,indolent ATLを対象に本治療法の有用性を検証する第III相試験を先進医療として実施することを計画しており,2013年秋には開始される見込みである。
 IFN/AZT療法がATLに対し有効性を示す機序は不明なままである。インターフェロンは,ATL細胞に対する直接的な増殖抑制作用,ウイルス蛋白の合成を阻害する抗ウイルス作用,免疫担当細胞を活性化させ,腫瘍細胞やウイルス感染細胞に対する細胞障害性を高める免疫増強作用,がん細胞やウイルス感染細胞の表面抗原(HLA-class I抗原など)の発現を増強させて,免疫担当細胞が異物としての認識を容易にする表面抗原発現作用,テロメラーゼ逆転写酵素阻害によるテロメラーゼ活性の阻害などが報告されているが,確定的なものではない30~32)。 AZTはhuman immunodeficiency virus (HIV)の逆転写酵素を抑制するが,HTLV-1は感染細胞内でウイルス自身の増殖はほとんどないため,AZTにはHTLV-1に対する抗ウイルス作用はほとんどない。AZTがテロメラーゼ活性阻害により抗腫瘍効果を示すことが示唆されているが,これも確定的なものではない33)

V.ATLの新規治療

1.抗CCR4抗体療法
 CC chemokine receptor 4 (CCR4)はケモカインレセプターの一つで,正常細胞ではヘルパー2型T (Th2)細胞や制御性T細胞に発現している7回膜貫通型蛋白であるが,ほとんど全てのATL細胞にも発現している。新規治療薬モガムリズマブはCCR4を標的とし,抗体依存性細胞障害によって抗腫瘍効果を示すヒト化モノクローナル抗体である。
 再発ATLを対象にした単剤での第I相,第II相試験での有効率(CR+PR)はそれぞれ31%,50%で,第II相試験での無増悪生存期間は5.2ヶ月,全生存期間は13.7ヶ月と,再発ATLに対する救援療法としては画期的な治療効果を示した34, 35)。現在は再発・難治性のCCR4陽性ATLに対する単剤での1週間隔8回投与が承認されているが,初発agressive ATLに対してもVCAP-AMP-VECP療法とモガムリズマブ併用VCAP-AMP-VECP療法の比較第II相試験の結果が間もなく公表される。
 有害事象として皮疹の発現頻度が高く,Stevens-Johnson症候群や中毒性表皮壊死症の発症36)が報告されている。また自己免疫疾患や間質性肺炎,B型肝炎ウイルスの再活性化37)の報告も見られる。これは本剤のCCR4陽性細胞に対する強力な細胞障害作用によって,CCR4を発現する正常の制御性T細胞も著明に抑制を受けることと関連しているためと考えられる。これらの有害事象は,投与中に限らず投与終了後時間が経ってから発症することもある。重症皮膚障害が発症した場合は,早急にステロイドホルモンの投与を開始し,場合によってはステロイドパルス療法を行う。

2.レナリドマイド
 再発・難治性多発性骨髄腫に対し既に承認されているimmune-modulatory drugで,海外臨床試験でB細胞性リンパ腫のほか,末梢性T細胞リンパ腫(PTCL),皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)に対し有効であることが報告されている。本邦での再発・難治aggressive ATLとPTCLを対象とした第I相試験の結果が公表され38),現在第II相試験を実施中である。

3.ボルテゾミブ
 多発性骨髄腫に対し既に承認されたプロテアソーム阻害剤で,米国ではマントル細胞リンパ腫に対しても承認されている。ボルテゾミブの作用機序の一つはNF-κB活性化阻害であること,ATLではNF-κBの活性化が腫瘍細胞の生存と増殖に重要な役割を果たしていると考えられていることから,本剤のATLへの有効性がいくつかの前臨床試験や数例の症例報告で示されている39~41)。再発・難治aggressive ATLを対象にした第II相医師主導試験が国内で実施中のほか,米国では化学療法とボルテゾミブ併用化学療法の比較試験が行われている。

4.プララトレキセート
 米国で再発・難治性PTCLに対し承認された葉酸代謝拮抗薬である。米国での再発・難治ATLに対する本剤投与例の治療成績が発表され,評価可能16例中CR1例,PR2例,無イベント生存期間中央値6週であったことが報告されている42)

5.デニリューキン・ジフチオックス
 米国で治療抵抗性・再発CD25陽性CTCLに対し承認されている薬剤で,CD25リガンドであるインターロイキン2のアミノ酸配列にジフテリアトキシンを融合させた大分子化合物である。ATLに対する海外での有効例の症例報告があり43),日本でも開発治験が計画されている。

VI.ATLの発がん,病態解明に関わる新知見

1.TaxとHBZ
 HTLV-1ウイルス遺伝子の解析が進行する中で,これまではNF-κB,AP-1経路などを活性化させるtax遺伝子が,細胞増殖と発がんの責任分子になっていると考えられてきた44, 45)。その後,患者ATL細胞ではHTLV-1プロウイルスに,tax遺伝子のナンセンス変異,5'LTRの欠損,5'LTRのDNAメチル化が生じ,半数以上の患者でATL細胞にTaxが発現していないことが明らかになった45)。一方,HTLV-1 3’側LTRからアンチセンス転写産物として転写されるHBZ遺伝子は,ナンセンス変異から回避され,ATL患者腫瘍細胞やHTLV-1感染細胞で例外なく発現していることが明らかにされた。プロウイルスが組み込まれる前にHBZ以外のウイルス遺伝子にナンセンス変異が起こっても,HBZ遺伝子があれば感染細胞は腫瘍化することから,HBZ遺伝子は単独でTリンパ球を腫瘍化すること,ATL細胞でHBZ発現を抑制すると細胞増殖が抑制されることが明らかになった46)。さらには,HBZがFoxp3遺伝子の転写を誘導することは,近年明らかになっていたHTLV-1感染細胞やATL細胞が制御性T細胞の形質を発現する事実とも整合する47, 48)。これらのことから,HBZがATL発症の責任遺伝子であることが提唱されている。

2.ATLのゲノム異常
 急性型とリンパ腫型では異なるゲノム異常様式をとることが報告されていた49)。その後,同一患者で急性型ATL患者のリンパ節と末梢血の腫瘍細胞を比較することよって,リンパ節と末梢血ではそれぞれゲノム異常様式が異なっており,リンパ節では末梢血にないゲノム異常が高頻度に認められ,末梢血に比較し多様性が大きいことが報告された。この事実はリンパ節で生じた腫瘍細胞クローンはリンパ節内でゲノム異常を蓄積しながら増殖し,一部が末梢血に出てくることを示唆している50)
 HTLV-1が関与しない末梢性T細胞リンパ腫,非特定型(PTCL-U)の一部に,ATLと同じように多数のゲノム異常をもつ患者群があって,そのゲノムプロファイルのみならず組織像,予後も両者は類似しており,HTLV-1の関係しないPTCL-Uの一部にリンパ腫型ATLと極めて類似した一群が存在する。興味深いことにこの一群はゲノム異常のないPTCLと比べ明らかにCCR4陽性例が多い51)。従って,治療戦略としても既にATLの治療に使用されるようになったCCR4を標的とする新規治療の対象となる疾患群である。これまでHTLV-1陰性ATLと指摘されていた症例は,この一群と一致する可能性が濃厚であり,25年以上前に臨床的な洞察から提言された病態が,分子生物学的に解明されつつあることは非常に興味深い52)

3.ATL高発症リスクHTLV-1キャリアの同定
 HTLV-1感染者でATLを発症するのはわずかに3~5%である。これはHIV感染者のAIDS発症,B型肝炎ウイルスあるいはC型肝炎ウイルス感染者の慢性ウイルス性肝炎発症リスクと比較すると圧倒的に低い。将来仮にATLの発症予防薬が開発されたとしても,予防的な介入が必要となる集団を特定できない限りは,多くのキャリアに不必要な介入がなされることとなる。また,キャリアの発症リスクを知ることが可能であれば経過観察等の医学管理にも有用である。
 末梢血単核球中のウイルス感染細胞数(ウイルスロード)が多いHTLV-1キャリアがATL発症リスクの高いことは小規模な研究で示唆されていたが53),Joint Study on Predisposing Factors of ATL Development (JSPFAD)によるHTLV-1キャリアの大規模な前向き研究で,1,218人のHTLV-1キャリアから14人がATLを発症し,その解析からATL発症の危険因子としてウイルスロード,年齢,ATLの家族歴,他疾患治療中に判明したHTLV-1感染の4項目が挙げられた54)

VII.HTLV-1感染対策

 国内のHTLV-1キャリア数は減少傾向にあり1988年には120万人,2007年には108万人と推定される。しかし地域別にみると,人口の移動に伴って九州では減少し関東や中部地方ではむしろ増加している55)
 HTLV-1の感染ルートは,母子間,性交渉,輸血に限られ,日常生活で感染することはない。このうち,性交渉による感染は男性から女性への感染が多いが,性交渉による青年期以降の感染によってATLを発症することはないとされている。輸血による感染は,細胞成分を含む血液製剤に限られるが1986年以降は血液製剤のスクリーニングが開始され,現在ではこのルートでの感染はない。母子感染の多くは母乳感染であり,無介入の場合はキャリアから出生した児の20%以上がHTLV-1に感染する。ところが完全人工栄養,凍結母乳栄養あるいは短期母乳栄養によって,それぞれ3%,7%程度に減少させることができる56)。HTLV-1感染とそれに起因する疾患群への対策に総合的に取り組むために,国は2010年9月「HTLV-1特命チーム」を設け,「HTLV-1総合対策」が策定された。妊婦健診でHTLV-1抗体検査が取り入れられ,HTLV-1キャリア妊婦には十分な説明とカウンセリングのうえで,完全人工栄養,凍結母乳栄養あるいは短期母乳栄養を推奨するHTLV-1母子感染予防対策が全国で開始されている。

文  献

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