演題詳細

教育講演 / Educational Lecture

教育講演11 (Educational Lecture 11) : プログレス

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日程
2013年10月11日(金)
時間
14:25 - 14:55
会場
第12会場 / Room No.12 (札幌市教育文化会館 1F 小ホール)
座長・司会
山下 孝之 (Takayuki Yamashita):1
1:群馬大学 生体調節研究所遺伝子情報分野
 
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ファンコニ貧血とDNAクロスリンク損傷修復の分子機構 ―最近の進歩―

演題番号 : EL-11

高田 穰 (Minoru Takata):1

1:京都大学 放射線生物研究センター

 

はじめに

 ファンコニ貧血(Fanconi anaemia; FA)は先天性骨髄不全症候群の1つであり,1927年,スイスの小児科医Guido Fanconiによって初めて報告された劣性の小児遺伝性疾患である1)。世界的には100,000出生に1人の発症頻度であることが知られている2)。人種間ではとくにユダヤ人(Ashkenazi Jews)に多く,あるFA原因遺伝子(FANCC)の変異保持者は77人に1人という報告がある3)。本邦での発症は年間5~7人前後と推定される4)。本症においては,FA原因遺伝子の両アレル変異によって,染色体の不安定性を背景に,進行性の骨髄不全,急性骨髄性白血病や固形腫瘍の合併,先天奇形や不妊などの臨床症状が引き起こされる5)。この総説では,FA原因遺伝子の機能について,最近の進歩を中心に概説する。

1.FA原因遺伝子群の発見

 FA患者細胞は染色体不安定性を示し,染色体の断裂や転座がみられる。さらに患者細胞をマイトマイシンC(MMC)やシスプラチンなどのDNA鎖間架橋(Interstrand crosslinks; ICL)薬剤で処理すると,染色体の断裂や,染色体が放射状に連結したラジアル構造とよばれる特徴的な染色体が観察される6, 7)。このようなICLへの極めて高い感受性は他の疾患ではみられず,この染色体断裂試験がFAの診断基準の1つとして用いられている8)。1975年に初めて佐々木正夫博士により,FA患者由来のリンパ球がアルキル化剤によるICLへ著しく高い感受性を呈すことが報告された。このことから,FAの重篤な臨床症状がICLに対する防御機構の欠損に起因するという仮説が提唱されたが9),分子レベルでの証拠が得られ始めたのは21世紀になってからのことである10)
 FAは単一の原因遺伝子による均一な疾患ではない。FAは当初,MMC感受性を指標とした体細胞融合による遺伝子相補試験によりいくつもの相補群に分類された。1992年,初めてFANCC遺伝子が同定され11),その後FANCA,G,E,Fと遺伝子がクローニングされたが,いずれも大腸菌や酵母にホモログが存在せず,何らかの機能を示唆するモチーフもないため機能は明らかになっていなかった。
 しかし,21世紀に入ってから,毎年のように新しいFA遺伝子が同定されるようになった。2001年には,D’Andrea,Grompeらにより,6番目の遺伝子としてFANCD2が同定され,FA経路そしてFA複合体の機能解明の大きな手がかりを得ることになった。このFANCD2蛋白質は,S期とDNA損傷後に,他のFA蛋白質依存的にモノユビキチン化され,DNA損傷部位に集積して核内フォーカスを形成する12, 13)。ユビキチンは76アミノ酸からなる小さい蛋白質で,E1-E2-E3酵素によるユビキチン化システムによって,ターゲット蛋白質のリジン残基にアイソペプチド結合によって付加され,当該蛋白質の局在や機能を調節することが知られている。ユビキチンの鎖が付加されれば,蛋白質のプロテアソームによる分解が起こることは良く知られているが,FANCD2の場合には単独のユビキチンが付加され,クロマチンへの局在シグナルとして機能すると考えられる。
 その後,FA遺伝子産物のうち,8種類の相補群の分子は物理的に相互作用し,複合体(FAコア複合体)を形成することが判明した。すなわち,すべての相補群の細胞における表現型,患者の臨床症状は類似していることより,FA遺伝子群は同一経路(FA経路)で働いていると考えられ,コア複合体とFANCD2ユビキチン化の関係によってこの同一経路が見事に説明できる。
 ではどのようにFAコア複合体はFANCD2モノユビキチン化に関与するのか。当初コア複合体にはE3(ユビキチンリガーゼ)酵素活性をもつサブユニットは発見されておらず,家族性乳癌遺伝子BRCA1の関与が示唆されていた。しかし,2002年Wangらは,FAコア複合体の新規構成分子として,ユビキチンE3リガーゼ酵素に特徴的にみられるリングフィンガードメインに類似したPHDフィンガードメインを有し,E3酵素活性をもつPHF9(=FANCL)を同定した14)。さらに,2007年に報告された新規FA蛋白質FANCIは,FANCD2と会合してID複合体を形成し,D2と同様に,S期とDNA損傷後においてFAコア複合体によってモノユビキチン化され,フォーカスを形成することが明らかになった15, 16)
 さらに興味深いことに,FA蛋白質群のうちFANCD1,N,Jの3つは,それぞれ家族性乳癌遺伝子であるBRCA2,PALB2,BRIP1と同一であることも明らかになっている。保因者(ヘテロ接合体)はFAを発症しないが家族性乳癌発症のリスクを持つ。これらのことは,FA蛋白質群は家族性乳癌(BRCA)蛋白質群とともに,DNA損傷応答に機能していることを強く示唆している。
 その後,2010年にFANCOとして知られるRAD51Cを加え17),2011年にSLX4(FANCP)がFA原因遺伝子であることが示された18)。また,つい最近新たにXPFが16番目の新規FA遺伝子FANCQとして同定され44, 45),現在までに16の原因遺伝子が同定されている(Table 1)。そろそろFA遺伝子ハンティングの時代は終わりに近いように見える。しかしながら既知の16遺伝子の変異が見つからない分類不能群が少数ながら存在しているので,いまだ未知のFA原因遺伝子が存在していることは確実である。

2.リン酸化とモノユビキチン化によるFA経路の活性化メカニズム

 プロテインキナーゼATR(ataxia telangiectasia and Rad3-related)はICLなどのDNA損傷後起こる複製フォークの停止によって活性化される。ATR下流では数々の蛋白質がリン酸化され,特にチェックポイントによる細胞周期停止をもたらずChk1キナーゼのリン酸化による活性化が良く知られている。FA蛋白質群のうち,FANCA,C,G,MはDNA損傷後においてリン酸化されることがわかっており,ATRの下流において機能していることが示唆されていた。またFANCD2,FANCIはどちらもATRおよびDNA2本鎖切断後に活性化されるATM(ataxia telangiectasia mutated)の基質であることが報告されている。2008年,我々のグループは,ニワトリDT40細胞のFANCIのリン酸化部位のアラニン変異体において,FANCD2のユビキチン化が障害され,ICLに対する感受性が高まることを報告した19)。また2012年には,同様にニワトリ細胞においてATRとその結合パートナーであるATRIP(ATM And Rad3-Related-Interacting Protein)が,FANCD2のユビキチン化とFANCIのリン酸化に重要であることが示され,FA経活性化にATRの役割が大きいことがわかっている20)

3.FA経路を形成する分子群

 FA蛋白群は共通の分子ネットワークにおいて働き,その概要はFig. 1のように理解されている。ここでは,15個のFA蛋白質群を4つに分類して概説する。
 第1に分類されるのは,ユビキチン化酵素FAコア複合体を形成する蛋白質であるFANCA,B,C,E,F,G,L,Mである。これらはFA関連蛋白FAAP24,FAAP20,FAAP100とともに核内で複合体(FAコア複合体)を形成する。DNA二重鎖架橋によって複製が阻害されると,FAコア複合体がFANCM-FAAP24複合体を介してクロマチンに結合する。
 第2のグループは,このFA複合体によってモノユビキチン化されるFANCD2,FANCIであり,この2つの蛋白質はお互いに結合してID複合体を形成している。両者のモノユビキチン化は相互依存的であり,FANCD2欠損細胞においてはFANCIのモノユビキチン化は認められず,FANCI欠損細胞においてはFANCD2のモノユビキチン化は認められない。FANCD2とFANCIは,ATRによるリン酸化を受け,結果としてFAコア複合体に含まれるFANCLユビキチンリガーゼによるユビキチン化によって,活性化ID複合体となる。さらに家族性乳癌遺伝子産物であるBRCA1,BRCA2/FANCD1をはじめとする蛋白と相互作用し,損傷乗り換えDNA合成,相同組み換え,ヌクレオチド除去修復などと協調してDNA二重鎖架橋を修復する(Fig. 2)。
 第3に,FancO/RAD51C,FancD1/BRCA2,FancN/PALB2,FancJ/BRIP1の4つの遺伝子産物である。これらは家族性乳癌・卵巣癌の原因となり,FANCD2,FANCIのモノユビキチン化に影響せず,ID複合体のユビキチン化の下流か,ないしはまったく独立に機能していると考えられる。
 第4のグループに属するものとしてFancP/SLX4があり,FANCD2/Iユビキチン化との関係においては第3のグループと同様である。これについては後の項で詳しく記載するが,ID複合体と協調して様々なヌクレアーゼの足場として機能し,架橋の起こったDNA損傷部位を切断し,その修復過程の重要な補助をすることが知られている。

4.ファンコニ経路の障害と幹細胞の機能

 FAの主要な臨床症状のひとつである骨髄不全は,FA経路の障害が造血幹細胞や前駆細胞の機能を障害していることを示唆しており,骨髄移植によって治療することができる。骨髄不全という表現型のメカニズムを明らかにするうえで,幹細胞の調節と維持におけるFA経路の機能を研究する意義は大きく,造血幹細胞におけるFA蛋白の分子機構を明らかにすることが,FAの病態生理のよりよい理解につながると考えられる。
 近年の報告では,FAの胎児と成人のFA患者において,ゲノムの守護者であるp53,その転写のターゲットとなるp21の発現レベルが骨髄造血幹細胞,造血期の肝臓で上昇していることが示されている。また出生後早期に骨髄不全を発症するFA患者では,DNAマイクロアレイを用いた解析で,健常人と比較してS期の進行を阻害する因子が活性化されていることが示されている。このp53/p21の過活性化により,FA患者の骨髄プールは出生前より増殖が障害されており,多くの細胞がG0,G1期にあり,DNA損傷応答経路が活性化されていると考えられる。造血幹細胞や前駆細胞の数が少ないだけでなく,幹細胞から前駆細胞への分化も障害されている21)
 FA経路の障害は,それ自体が十分に血液細胞の分化を阻害しうることが試験管内の実験で示されている。ヒトES細胞において,FANCAやFANCD2をsiRNAでノックダウンすると,造血幹細胞と前駆細胞の産生とその分化が障害される。前駆細胞をクロスリンク薬剤で処理すると,その増殖障害が増悪する。このことから,FA経路のICL修復機能と幹細胞の発生に関連があることが示唆される。また,マウスとヒトの幹細胞において,FA経路障害による二核化細胞の増加が観察されており,細胞質分裂の障害が骨髄不全を引き起こしているという考えも提唱された22)
 幹細胞機能におけるFA経路の重要な役割は,FA患者の繊維芽細胞からinduced pluripotent stem(iPS)細胞を作成する過程でも認識されている。FA経路の欠損した繊維芽細胞はiPS細胞へのリプログラミングが困難であった23, 24)。FA経路に関わる蛋白質がリプログラミングに直接関わる可能性も示唆されている。FA細胞におけるDNA損傷応答の亢進は,リプログラミングに必要な正常な細胞周期の進行や細胞分裂を阻害する可能性がある。また,リプログラミングプロセス自体がDNA障害を引き起こすことが知られており,p53の発現上昇と二本鎖DNA(dsDNA)切断の増加と細胞老化が引き起こされることが知られている25)。その修復にFA経路が必要である可能性もある。これらの疑問を解き明かすことによって,幹細胞におけるFA経路の位置づけがさらに明確になると期待される。

5.FA経路とがん抑制作用について

 ファンコニ貧血は発がんと関連が強い疾患である。とりわけ急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia, AML)と扁平上皮癌はFA患者に多くみられる合併症である。FA経路の下流で働く4つの遺伝子BRCA226),PALB227),BRIP128, 29),RAD51C17)は相同組み換え修復に関わり,単一アレルの変異で,卵巣および乳癌のリスクを増大させる(Hereditary breast and ovarian cancer,HBOC,家族性乳がん卵巣がん)。BRCA2ないしはPALB2の両アレル変異のFA患者は,白血病の早期発症や生後2年以内の腫瘍合併など,より表現型が重篤であることが知られている。また,頭頚部の扁平上皮癌は特に舌癌が多く,ヒトパピローマウイルス(human papilloma virus, HPV)といった腫瘍をひきおこすウイルス感染と関連があると報告されている30)

6.ID複合体によるDNA修復機能の調節

 以上みてきたように,ID複合体が活性化されることが,ICL修復と幹細胞機能維持,発がん抑制作用に重要である。それでは,ID複合体は具体的にどのような機能を持っているのか。FANCD2もFANCIともDNA結合活性をもつものの,酵素活性を示唆するモチーフもなく,その機能は最近まで全く不明であった。
 近年の研究で,ID複合体は損傷局所に様々なDNA切断酵素(ヌクレアーゼ)をリクルートする足場として働くことが強く示唆されている。DNA修復経路で最も重要なステップとして,ヌクレアーゼによるDNAのプロセッシングと障害をうけた塩基の物理的除去がある。ICLの場合,その修復にはDNA鎖の切断が必須であり,複数のプロセッシング酵素の協調がこれを担っていると考えられる。ICL近傍でのDNA鎖の切断には構造特異的なヌクレアーゼが必要で,その切断の後,DNAが相同組換えをおこすことができる(Fig. 2)。FA経路により調節されるヌクレアーゼには,XPF-ERCC1,MUS81-EME1,SLX1とFAN1などが上げられる31~35)
 2011年に新しく同定されたFA分子SLX4/FANCP18)は,XPF-ERCC1,MUS81-EME1,SLX1という3つの構造特異的なヌクレアーゼと会合し,これらヌクレアーゼの足場,モジュレーター,コファクターとして機能する。ヒトのFANCP欠損細胞に,FANCPの様々なdeletion mutantを発現させ,各ドメインと複合体の機能を検証したところ,XPFとの会合ドメインのICL修復における重要性が明らかとなった36)。FANCPは様々なヌクレアーゼと協調し,DNA障害の種類に応じてそれを使い分けて修復に働く重要な足場らしいが,ファンコニ貧血においては,XPFとの関係が特に重要であると言える。
 さらに最近,我々の研究グループは,早稲田大学胡桃坂研究室と共同で,FANCD2がヒストンシャペロン活性を持つこと,そして,この活性がICL修復に必須の役割を果たすことを見いだした。ヒストンシャペロン活性は,損傷修復の現場でのヒストン蛋白質の除去,ないし修復後のヒストン再構築に役立つことが想定される37)。上記のヌクレアーゼ群のリクルートとヒストンシャペロン活性の関係など,今後の課題は多く残されている。

7.内因性代謝産物によるDNA損傷とファンコニ貧血病態

 実験的にDNA修復障害をモデル化する際に用いられる外因性のゲノム障害物質(薬剤)に,実際にヒトが日常さらされることはないといってよい。FA経路は,ヒトの体内で,細胞周期の進展それほど影響しないレベルの内因性の複製ストレスに対して応答することが想定される。しかし,実際のFA患者において,その臨床症状である骨髄不全,白血病,耳鼻科領域や食道の癌を引き起こしているDNA損傷物質が何であるのかは明らかになっていない。候補としては,脂質の過酸化によって生じるマロンジアルデヒドやアクロレイン,脂質代謝とは独立して生じる一酸化窒素(NO)などがあげられ,さらにアルデヒドが主要な内因性のクロスリンク障害の原因として考えられてきた38, 39)
 2007年にノースキャロライナ大学の中村らは,DT40細胞のノックアウト細胞パネルを利用して,FA細胞が血清レベル程度の濃度のフォルムアルデヒドに強い感受性を示す事を報告し,FA原因遺伝子が修復しているDNA損傷がフォルムアルデヒドによってひきおこされている可能性を示唆した40)。この先駆的な仕事に引き続いて,2011年に英国ケンブリッジ大学のKJ Patelらは,ノックアウトマウスを用いて,FA遺伝子FANCD2と,アセトアルデヒド代謝に重要なALDH2(acetaldehyde dehydrogenase 2,エタノールの代謝産物であるアセトアルデヒドを酢酸にまで分解する)の両遺伝子に強い遺伝的相互作用(genetic interaction)を認めて報告している41)。彼らはまずニワトリDT40細胞のFAノックアウトを解析し,FA分子の欠損状態が特異的にアセトアルデヒドに感受性が強いことを確認した。そして,ALDH2のノックアウトマウスを用意し,以前樹立されていたFANCD2ノックアウトマウスとかけ合わせを試みた。ALDH2のみのノックアウトマウス(ALDH2-/-)は,予想通りメンデルの法則に従って生まれ,何の表現型も示さなかった。ALDH2-/-FANCD2-/-マウスを得るため,ALDH2+/-FANCD2+/-とALDH2-/-FANCD2+/-の二つのgenotypeのオスとメスマウスをそれぞれで用意し,クロスしたところ,メスがALDH2-/-の場合,ALDH2-/-FANCD2-/-のダブルノックアウトマウスは決して生まれず,胎生9.5日と13.5日の間での致死であることが判明した。オスがALDH2-/-の場合には問題無く生まれてくるため,これは胎児と母体をあわせてALDH2の正常アレルが一つもないと,自然に産生されるアセトアルデヒドが分解できず(アセトアルデヒドは胎盤を通過することが知られている),FANCD2-/-マウスが生存不可能になると解釈できる。さらに,彼らは妊娠中のマウスへのエタノール投与により,ALDH2-/-FANCD2-/-マウスが非常にエタノールに感受性が強く,奇形が頻発することを確認した。また,生後6~8週のALDH2-/-FANCD2-/-マウスに10日間エタノールを連続投与したところ,骨髄不全が強く誘発され,骨髄細胞にDNA損傷マーカーであるγH2AXが認められた。さらに,FANCD2-/-マウスでは上皮性のがんが見られるのに対して,このダブル変異マウスでは,3~6ヶ月の間にT細胞性の白血病が出現し,寿命が短縮することが観察された。これらの実験結果から,アセトアルデヒドがファンコニ貧血の症状の原因物質として関与すると考えられた。また,この結果はアセトアルデヒドの産生の低下や分解の促進法が,ヒトのFAの新たな治療法へのアプローチとなることを示唆している。アセトアルデヒドがどのようにDNAを傷害しているのか,詳細なメカニズムは不明であるが,DNA-蛋白質,DNA-DNAのクロスリンクを作っている可能性が考えられる。また,これらの結果からは,母親が習慣性あるいは大量に飲酒した場合の胎児性アルコール症候群とDNAダメージとの関連も示唆される。
 興味深いことに,日本人をはじめとした東アジア人ではほぼ5割の人間がALDH2の変異型アレル(Lys型)をもち,その活性は正常型(Glu型)に比べ非常に低く,ヘテロ(Glu/Lys型)でも10分の1程度である(ドミナントネガティブ効果による)。ホモもしくはヘテロ変異型のヒトが飲酒するとアセトアルデヒドによる中毒症状(顔面紅潮,悪酔い症状)が出現しやすいのは,日常的に経験するところである。また,ヘテロ変異型では慣れから飲酒習慣を持つことも多いが,その場合,飲酒をリスク要因とした食道がんなどの発生率が10倍ほども高いと言われている。飲酒後のflushingの有無によって,ALDH2の遺伝子型はほぼ確実に判定でき,そのような個人には,がん予防のため飲酒を避けることが強く勧められている42)。このような発がんは,アセトアルデヒドによるDNAダメージによる可能性が高く,これはファンコニ貧血患者でみられる食道や舌がんなどにも関連していることが考えられる。もしこの仮説が正しければ,ヒトALDH2のアゴニストであり化学的シャペロンであるAlda-1は,変異型ALDH2の活性を高めることが可能であり43),今後FAの治療薬としての可能性が期待できる。

今後の展望

 FAは,多岐にわたる病態,多数の分子,家族性乳がんとの関連など,基礎研究の対象として魅力的である。ゲノム編集酵素や次世代シーケンサーなどの手法,iPS細胞による病態解析と治療薬開発などによって,今後の研究の進展がますます加速することが予想される。新規遺伝子の同定も,まだ完全に終わったわけではない。FAの病態解明は,他の血液疾患,悪性疾患の病態解明と治療法開発への波及効果も大きいであろう。一方,臨床へ目を向ければ,欧米の状況に比べて,日本人におけるFAの分子疫学的解析がまとまってなされたことはなく,日本におけるFAの統計的データも十分には示されていない。今後はこのような方向にも注力し,疫学的にも日本をはじめとしたアジアのFAの全体像をつかむ必要があると考える。FAの子供たちのために,骨髄移植の他にも有効な治療法,特に何らかの小分子薬剤が開発される基盤は,かなり整ったと言えるだろう。ブレイクスルーが期待される。

文  献

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