発表

一般研究発表(ポスター)
2PM-065

身体近傍空間が声の選好判断に及ぼす影響

[責任発表者] 北村 美穂:1
[連名発表者] Ana Tajadura-Jiménez#:2, [連名発表者] 北川 智利:1
1:NTTコミュニケーション科学基礎研究所, 2:Interaction Centre, University College London

目 的
 頭部近傍に呈示された聴覚刺激から触覚体験が生じることが知られている(Kitagawa & Igarashi, 2005)。経験的にこうした触覚体験が情動的要素を含むことから(例;くすぐったいなど),本研究では,身体近傍空間が情動的な処理にどのような影響を及ぼすか,声の好みを対象として検討した。

実験1
方 法
 実験参加者 24人(男性6名、女性18名 平均年齢31才(SD=5.8))
 刺激と実験条件 あらかじめ10名(男性5名,女性5名)に自己紹介文を読んでもらい,音声を録音した(原音声)。この声をマウスシュミレータから再生し,10cm離れた(近音),もしくは,100cm離れた(遠音)ダミーヘッドで録音した。原音声と近音・遠音をそれぞれ合成し、実験刺激を作成した。距離情報量を操作するため,原音声と近音/遠音の比率を,9:1に合成した音声を聴取する場合を10%条件,5:5に合成した音声を聴取する場合を,50%条件とした。
 課題 参加者は,継時的に呈示された近音・遠音について,どちらがより好きかボタン押しで答えた。二つの音声は,同じ性別の別人の声で,かならず近音と遠音が対になって呈示された。

結 果と考 察
 二肢強制選択の結果をもとに,10%と50%それぞれの条件で,近音を選択した比率を参加者ごとに算出した。各条件での近音の選択がチャンスレベルと有意に異なるかどうか検討するため,1サンプルのt検定を用いて検討したところ,50%条件では,近音と遠音の選択に偏りはなかったのに対し(t(23)=0.49, p>1),10%条件では,チャンスレベルより有意に近音を好ましいと判断する参加者が多かった (t(23)=2.43, p<.02, Fig.1)。さらに,各音声について,刺激が呈示された総呈示数のうち何回好きと判断されたかを示した声の魅力度と、近音が選択された数を遠音が選択された数で除した近音選択比率を求め,両者の相関係数を算出した (Fig.2)。その結果,高い負の相関が認められた(r=-.75, p<.0001)。これは、もともとの魅力が低い音声のほうが,遠距離呈示よりも近距離で呈示された場合により好ましいと感じることを示唆する。
 実験1の結果から,原音声にわずかに付加された近距離情報が,音声の選好に影響を及ぼす可能性が示唆されたが,そもそも,使用した音声刺激の距離情報について,参加者はどの程度自覚しているのだろうか。実験2では,同じ刺激を実験1と同様の手法で呈示し,どちらの刺激が近く感じるか,または強く感じるかを尋ね,刺激の物理的強度の知覚を検討した。

実験2
方 法
実験参加者 12人(男性6名、女性6名 年齢37.6才(SD=6.0))
刺激と実験条件 実験1と同じ。
課題 継時的に呈示された近音・遠音について,どちらの声が近いかもしくは強いかをボタン押しで答えた。

結 果と考 察
 実験1と同様に,二肢強制選択の結果をもとに,距離と強さの評定について,10%と50%それぞれの条件で,近音を選択した比率を参加者ごとに算出した。各条件ごとに,近音の選択がチャンスレベルと有意に異なるかどうか調べるため, t検定を実施した。その結果,距離の判断では,10%,50%条件ともに,近音と遠音の選択に偏りはなかった (p>1)。一方,強さの判断では,50%条件で有意に遠音を強いと判断する参加者が多く(t(11)=-8.80,p<.0001) ,10%条件では判断の偏りは認められなかった。これらの結果から,50%の刺激については,物理的な刺激の差異を参加者が自覚していることが示唆された。

まとめ
 実験の結果,物理的特徴の差異に無自覚的な場合に,身体近傍情報が選好決定に影響を及ぼすことが示唆された。身体近傍空間への他者の侵入は、不快感情を誘発することが報告されており(Kennedy,et al., 2009),情報の無自覚性が好意増加を促している可能性がある。また,距離の影響は,声そのものが持っている魅力が低いほうが顕著であった。声そのものの魅力が高い場合は,選好判断は声の魅力にもとづいてなされ,距離要因が与える影響は小さい可能性が考えられる。

引用文献
Kennedy,D.P., Gläscher, J., Tyszka, J.M., Adolphs, R. (2009) Personal space regulation by the human amygdala, Nature Neuroscience, 12, 1226-1227.
Kitagawa, N. & Igarashi, Y. (2005) Tickle sensation induced by hearing a sound. The Japanese Journal of Psychonomic Science, 24, 121-122.

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