発表

一般研究発表(ポスター)
2AM-062

仮現運動では何が動くのか—複数光点の継時的点滅による実験的検討—

[責任発表者] 吉野 中:1
1:明星大学

目 的
 仮現運動における最適運動(β運動)では,運動する対象は静止図形と同じものであることが前提となっている。一方,Wertheimer(1912)は,視対象と動き(φ現象)とを区別しており,明確な運動対象を伴わない運動視(純粋φ)が生じることも示している。林(1986)は,点灯した静止光点が継時的に消灯−点灯する,一般的な仮現運動とは逆の呈示において,明確な運動対象のない(影の)仮現運動を示した。さらにテレビ放送に用いられる補完画像や,アニメーションにおける「おばけ」なども,意図する運動対象とは異なるものが描画されるにも関わらず,むしろよい運動視をもたらす方法として成立している。これらのことから,実際に呈示する静止図形と,知覚される運動対象が一致する場合(β運動)は,仮現運動におけるごく一部の現象であり,「何が動くのか」は静止図形や呈示方法に影響を受けるものと考えられる。
 Wertheimer(1912)は,2対象の同時的点滅(同時時相)から1対象の明確な移動(最適時相),そして2対象の継時的点滅(継時時相)の3つの主要時相に加え,二極部分運動や純粋φなどの特徴的な運動印象を示した。最適時相では運動対象が1つ,二極部分運動では2つ,純粋φでは明確な運動対象は無いということになる。この運動印象は,2図形の点滅を1度だけ呈示する単回観察,あるいは繰返し交互に点滅させる持続的観察によって得られたものだが,単回観察では一瞬しか呈示されず,交互の点滅では性急な往復運動となり,特徴的な運動印象はこれらの呈示方法に影響を受けたものである可能性がある。また,映画やテレビ映像,アニメーションなどにおいては,直線的な動きを見る場合がほとんどである。
本研究では,複数の光点を等間隔に配置し,等しい露出時間およびSOAで順次点滅させることで,運動対象の見え方の質的な変化を明らかにする。

方 法
手続き コンピュータ画面に,複数の光点を水平に配置し,継時的に点滅させた。1条件1回の観察ごとに口頭で自由記述を行った。光点間のSOAを操作し,観察はランダムなSOA条件順で行った。得られた自由記述より,運動対象や動きを抽出し,SOA条件で分類した。
独立変数 SOA条件は0msから340msまで17ms刻みで20段階とした。
その他の条件 静止図形(光点)は,直径約0.1°(視覚)の白色の小円(75cd/m2),背景は黒色(0.2cd/m2)とした。各光点間の距離は1°,光点数は8個とした(図1)。各光点の点灯時間は17msとした。各条件はランダムな順序で観察を行い,1回の呈示ごとに最低5秒間のブランク画面(一面黒色)を挟んだ。観察距離は約60cmとした。
観察環境 観察は,低照明下(CRT画面表面の照度0.7lx)の実験室内で椅子に座り,安定した姿勢で行った。

機器・装置 呈示プログラムの作成にSwiftを使用した。プログラムの実行および制御にはApple製のMacBook Air 11 inchを使用した。描画にはSONY製のCRTディスプレイ(CPD-G420,1280×1024dots,視角は約43°×32°)を用いた。

結 果
 予備実験として2光点での観察を行った。SOAが80ms以下で同時,150msで最適,250ms以上で継時時相となった。
 8光点では,SOAが0msを除いて全てのSOA条件で運動が知覚された。どのような対象が運動するかに関しては,SOA条件によって異なっていた。
SOA=0msでは,光点が全て同時に点滅する。30ms以下では,数は不明の光点群,あるいは,光点は静止しており別の何かが動く。それ以上で100ms以下まででは,SOAが長くなるごとに光点の数(あるいは白い何かの幅)が減っていく。100ms付近で2点あるいは1点の光点が交替あるいは伸縮しながら移動するように知覚される。130〜170msで,常に点灯した1光点が遮蔽されながら移動するように知覚され,それ以上のSOAでは点滅する1光点の移動となった。最適時相(130〜170ms)でも,1つの光点が連続して見えるわけではない。

考 察
仮現運動に知覚される運動対象は,仮現運動の呈示に用いられる静止図形と同じではない。複数光点では,特徴的な動きや運動対象を観察することができた。同一形状の光点を時間的・空間的に等間隔に配置し,継時的に点滅させる本実験によって,何が動くのか(運動対象)はSOAによって変化することが示された。複数光点に知覚される諸相に対応するSOAの値は,図形の特徴や図形間の距離・図形の呈示時間などの複合的な関係で決まるものと考えられる。

引用文献
Max Wertheimer. (1912). Experimentelle Studien über das Sehen von Bewegung. Zeit Schrift Für Psychologie, 61, 161-265.
林 銈蔵. (1986). 光点間の滅-滅仮現運動について(シンポジウムB, VII.第5回大会発表要旨). 基礎心理学研究, 5(1), 40.

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