発表

一般研究発表(ポスター)
1AM-087

死はdeathより重い 〜日本語話者における道徳的判断に対する異言語効果の分析〜

[責任発表者] 中村 國則:1
1:成城大学

目 的  言語と思考の関係は古くから多くの研究者の関心を集めてきたものである.そこでは,用いる言語で思考の方式が変わるのかどうかが検討対象となり,肯定的・否定的研究含めて多くの議論が重ねられてきた.その中で近年注目を集めているのがKeysarらを中心としたグループによる,意思決定課題に対する言語の影響を表す異言語効果(foreign-language effect: Costa, Foucart, Arnon, Aparici, & Apesteguia, 2014; Keysar, Hayakawa, & An, 2012)の研究である.彼らはアジア病問題(e. g., Tversky & Kahneman, 1981)といった決定課題を,母国語か第二言語のいずれかで実験参加者に行わせ,第二言語で課題を提示された場合の方が母国語の場合に比べて合理的回答を行う傾向が強まることを見出した.このような知見は思考の二重過程理論(Kahneman,2012; Stanovich, 2004)からは,母国語による思考が自動的・感情ベースの思考プロセスを経るのに対し,第二言語による思考は論理・統制ベースの思考を経るため,結果的に合理的思考を促進するためであると解釈できる.
そしてKeysarらは,同様の知見が道徳的判断に対しても成立することを明らかにした(Costa, Foucart, Hayakawa, Aparici, Apesteguia, Heafner, & Keysar, 2014).道徳のジレンマと呼ばれる課題についてはこれまで,少数を犠牲にして多数を助けることの是非を問う課題が,トロッコのジレンマと呼ばれる形で示されるか歩道橋のジレンマと呼ばれる形で示されるかで反応が大きく異なることが知られ,その違いは道徳的判断に対する感情ベースの思考と論理ベースの思考の関与の相違から説明されてきた(e. g., Greene et al, 2001).そこでCosta, Foucart, Hayakawa, et al. (2014)は英語を母国語とする実験参加者と英語以外の言語を母国語とする実験参加者の双方に,トロッコのジレンマと歩道橋のジレンマの2種類の道徳のジレンマを,母国語か第二言語のどちらかで提示し回答することを求め,第二言語でジレンマを呈示された場合の方が,ジレンマ間の反応の相違が減少し,かつ合理的回答を行う比率が高まることを明らかにした.
本研究の目的は,より多くのジレンマ課題を用いて言語の違いの影響を検討することである.Costa et al. (2014)の研究では,トロッコのジレンマと歩道橋のジレンマのみを分析対象としているものの,道徳のジレンマとして分類される課題はトロッコ学(Trollyology)と揶揄されるほど多様なものが存在する.その中には,歩道橋問題よりもより感情的な反応を,あるいは逆にトロッコのジレンマよりも合理的な反応を反映すると想定されているような課題も存在し,そのような課題を用いた場合でもCosta et al. (2014)と同様の知見が得られるかどうかはこれまで検討されていない. そこで本研究ではトロッコ・歩道橋のジレンマを含む12種類の道徳のジレンマ課題(Mikhail, 2007)を用いて以上の2つの問題を検討することを行った.そこでは12種類の道徳のジレンマを日本語・英語のどちらかで提示された実験参加者の反応を分析し,先行研究通りの異言語効果がみられるか,そして言語間でジレンマ間の類似性・相関構造はどの程度異なるかを検討した.

方 法  218人の日本語を母国語とする大学生が実験に参加した.111名が外国語条件に,残りの107名が母国語条件に割り当てられた.実験刺激として,Mikhail (2007)に記載されていた12種類の道徳のジレンマを実験課題として用いた.外国語条件にはMikhail (2007)に記載されていた課題をそのままの文言で提示し,母国語条件ではそれらを日本語訳したものを用いた.実験は授業中に集団状況で行い,参加者には“ある人物の行為を評価する課題”であると口頭で教示した.参加者は全てのジレンマについて,ジレンマの中の行為が道徳的に許されるかどうかを8件法(0:許されない~7:許される)で回答した.実験刺激は冊子上で提示し,1ページに1問だけ記載されるよう冊子を作成した.全ての参加者は15分以内に問題に回答した.

結果および考察  全12種類のジレンマに対する平均評定値をFigure 1に示す.全てのジレンマ課題で評定値は外国語条件の方が母国語条件よりも有意に高かった(全てp<.01).また,この中でトロッコのジレンマと歩道橋のジレンマの2種類を取り上げ,ジレンマの種類(トロッコ/歩道橋)×言語(母国語/英語)の2要因分散分析を行ったところ,2要因の主効果(ジレンマの種類:F(1, 194)=28.92, p < .01; 言語:F(1, 194)=38.65, p< .01),および交互作用(F(1, 194) = 18.02, p<.01)が有意となった.ただしFigure 1が示すように,全てのジレンマで英語条件での評定値が評定尺度の中間点に集中しており,英語条件でジレンマの意味が解釈できず,“どちらでもない”反応が誘発された可能性が示唆される.

引用文献■Costa et al. (2014). Cog, 130, 236–254.■Costa et al. (2014). PLOS ONE, 9, e94842.■Greene et al. (2001). Sci, 293, 2105–2108.■Kahneman, D. (2012). Thinking, fast and slow. ■Keysar et al. (2012). Psycho Sci, 23, 661–668.■Stanovich. (2004). The Robot’s Rebellion ■Tversky & Kahneman.(1981).Sci, 211, 456-458.

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