発表

一般研究発表(ポスター)
1AM-083

音声マスキングが感情音声の認知に及ぼす影響

[責任発表者] 重野 純:1
1:青山学院大学

目 的
 感情音声は種々のパラメーターにより、その特徴が表現ささ、ポーズ(空白部分)、有声・無声の持続時間等である。本研究では、れる。例えば、声の高さを決める基本周波数(F0)、F0の最高周波数・最低周波数、声の大き種々ある音声マスキングの方法の中から、ランダム・スプライシング法(音声信号を短い時間間隔ごとに分割し、それらをランダマイズした上で再結合する方法、以下、RS法と略記)と逆向き再生法(RR法)の2つの方法を用い、方法の違いによりマスクされる音声の感情認知がどのような影響を受けるのかを実験により測定した。結果より、言葉の「言外の意味」が感情音声の認知に及ぼす影響について考察した。

方 法
被験者 聴覚健常な21名の日本人大学生・大学院生。
刺激 日本人のプロ俳優4名(男女各2名,20〜30歳代)に「おめでとう」「大好きです」(「言外の意味」が幸福の短文)と「泣きそう」「胸が潰れそう」(「言外の意味」が悲しみの短文)をそれぞれ幸福と悲しみの感情を声に込めて発話させ、マスキング加工した(表1)。話者にはピッチやイントネーションなどにより感情を表現するよう指示し,笑い声,泣き声,舌打ちは禁止した。発話音声はProResレコーダー(AJA, KI-PRO)で録音し、短文毎・話者毎に2〜3個の音声の中から実験者を含む2名がともに最もよく感情を表わしていると判定したものを実験刺激とした。
手続き 被験者には音声を注意して聴き,話者の感情を7つの感情の選択肢(無感情,幸福,驚き,怒り,嫌悪,恐れ,悲しみ)の中から一つだけ選択するように求めた。さらに,反応ごとにその確信度を5段階で評価させた。音声はスピーカーから快適な大きさで提示した。判断時間は4秒とした。被験者1名あたり4(刺激文)×2(音声の感情)×4(話者)の計32試行をランダムに呈示した。発話の1秒前に合図音として純音(1000 Hz, 200 ms)を呈示した。呈示条件は無加工(AO)とマスキング加工(RS, RR)の計3条件とした。

結 果
 被験者の反応は,話者が意図した音声の感情と同じ感情に同定した場合を正答とした。図1は平均正答率とSDを表す。上からAO、RS、RRの結果である。
 重野(2014)は言葉の意味が分からない未知の外国語を刺激音声として用いた場合、聴覚のみ提示では「幸福」りも「悲しみ」の方が正答率の高いことを見出した。本研究では被験者の母語である日本語を用いた。結果は、言葉の意味が分かるAO呈示においてのみ言葉による正答率の差が認められなかった。更に、未知の外国語の場合と同様に、音声の感情は「幸福」よりも「悲しみ」の方が正答率の高いことが認められた(p <.005)。一方、音声マスキングをした場合には、この傾向がより強く表れ、さらに言葉の感情によって正答率に差のあることが認め
られた (p <.05)。
 確信度はAOでは言葉も音声も感情間に差はなかったが、RS, RRでは音声が「悲しみ」である場合の方が「幸福」である場合よりも確信度が高かった (p <.01)。

考 察
実験結果より、音声マスキングした場合には、意味情報が失われ、話者の音声に対する感情認知は未知の外国語の感情認知の結果に類似すると考えられる。また、日本語呈示の場合(AO)は、言葉の意味が分かるため、話者が音声により表出した感情はそのまま認知されず表示規則に従って較正される(calibration)と考えられる。以上の結果より、音声による感情認知の場合、話者の言葉の「言外の意味」が感情認知に影響することが示唆された。

引用文献
重野純 (2014). 感情音声の表出に及ぼす言葉の影響. 音声言語医学, 55, 233-238.

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