発表

一般研究発表(ポスター)
1AM-081

フランカー課題におけるN1成分に対する競合適合効果

[責任発表者] 鈴木 浩太:1
[連名発表者] 篠田 晴男:2
1:国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所, 2:立正大学

目 的
 フランカー課題などの干渉課題では,事前試行の一致性によって反応時間が変化することが知られている(conflict adaptation effect: 競合適合効果、グラットン効果);一致刺激後の一致刺激(compatible→compatible: cC)よりも不一致刺激後の一致刺激(incompatible→compatible: iC)に対して反応時間が延長する一方で,一致刺激後の不一致刺激(compatible→incompatible: cI)よりも不一致刺激後の不一致刺激(incompatible→incompatible: iI)に対して反応時間が短縮する。競合適合効果は,競合モニタリング理論を用いて説明される(Botvinick et al., 2001)。この理論では,事前試行で高い競合量が検出された場合,現試行で競合量を減らすためにフランカー刺激に対応した感覚入力を事前に抑制することを仮定している。本研究では,競合適合効果に伴う事前の認知的制御と知覚処理の関係について検討することを目的とした。100〜200 ms間に最大値を示す後頭部優位の陰性事象関連電位(event-related potential: ERP)成分N1は,刺激の物理量(例えば,大きさ)と認知処理(例えば,選択的注意)の両面を反映する。そこで,N1が競合適合効果に伴う事前の認知的制御によって影響を受けると考えた。

方 法
 大学生及び大学院生21名(女性6名, 平均年齢 24.08 ± 2.62歳, 年齢層20–29歳)を対象とした。参加者は,脳波記録中に矢印を用いたフランカー課題を実施した。フランカー課題は,5つの矢印列の中央の矢印に対して,左右のボタン押し反応を参加者に要請する。刺激は,中央の矢印とその他の矢印の関係性から,一致刺激(<<<<,>>>>)と不一致刺激(>><>>,<<><<)に分類される。本研究では,一致刺激または不一致刺激が3〜5回繰り返される系列を作成し,交互に配列した。cC,iC,cI,iIの4条件に分類して検討を行った。
 脳波は,サンプリング周波数500Hzで鼻突を基準電極として頭皮上29部位から記録した。0.1 Hz〜50 Hzのバンドパスフィルタを適用した。刺激呈示前-100 ms〜刺激提示後1000msを解析区間とした。眼球運動などのアーチファクト除去後に,加算平均処理を行った。そして,全チャネルの平均を基準とした後,各サンプリング時点の全電極間の標準偏差をGlobal Field Power(GFP)として計算した。100〜200 msのGFPの最大値をN1と同定した。さらに、sLORETA を用いて,130〜150 ms区間でcC とiC及びcI と iIにおける各脳領域の電流密度の差を検討した。

結 果
 正反応時間と誤反応率について,現在試行と事前試行の一致性を独立変数とした分散分析を行ったところ,両従属変数で,現在試行と事前試行の一致性の交互作用が認められた。単純主効果の検定を実施したところ,反応時間がiC試行よりもcC試行で短縮し,iI試行よりもcI試行で延長することが確認された(α = .05)。また,誤反応率は,cCとiC間の主効果は認められなかったが,iIよりもcIで増大した。また,個人成績を確認したところ,5名で競合適合効果が認められなかった(正反応時間iC+cI-cC-iI > 0,低効果群)。ERPの解析では,低効果群を除外して検討した後に,低効果群と他の15名と比較した。
 N1のGFP頂点振幅について,現在試行と事前試行の一致性を独立変数とした分散分析を行った。事前試行の一致性の主効果が認められ,一致刺激後よりも不一致刺激後に,N1のGFP頂点振幅が減弱することが示された。さらに,N1のGFP振幅について,群(効果群、低効果群),現在試行と事前試行の一致性を独立変数とした分散分析を実施した。3要因の交互作用が有意となり,低効果群では,事前試行の一致性効果が認められないことが明らかになった。
 sLORETAによる比較では(15名の解析),右上前頭回の電流密度がcIよりもiIで減弱した(BA9, 両側 p < .05)。他方,cCとiCの対比では,有意な電流密度の差が示されなかった(片側p > .1)。

考 察
 本課題の行動指標において,競合適合効果が確認された。競合モニタリング理論と一致して,N1成分は,一致試行後の試行よりも不一致試行後の試行で減弱した。また,sLORETAによる分析では,iI試行よりもcI試行で,右上前頭回の活動が減弱した。右上前頭回は,干渉制御や課題切り替えに伴う抑制に関係するとされる(Aron et al., 2004)。cI試行では,フランカー刺激の感覚入力が抑制されていないので,刺激呈示後の干渉制御に関連して右上前頭回が活動するが,iI試行では,事前の認知的制御が行われているため,右上前頭回の活動が低下することが示唆された。一方,一致刺激においては,刺激呈示後に反応を制御する必要がないため, 右上前頭回の差が認められないことが考えられた。低効果群では,N1における事前試行の効果が認められなかった。すなわち,行動指標から想定される戦略の違いが N1成分の振る舞いに関連することが示された。以上のことから,競合適合効果に伴う刺激呈示前の認知的制御の変化が,N1成分に関連した知覚処理に影響を与えることが推察された。

引用文献
Aron, A. R., Robbins, T. W., & Poldrack, R. A. (2004). Inhibition and the right inferior frontal cortex. Trends in cognitive sciences, 8, 170-177.
Botvinick, M. M., Braver, T. S., Barch, D. M., Carter, C. S., & Cohen, J. D. (2001). Conflict monitoring and cognitive control. Psychological Review, 108, 624-652.

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