発表

一般研究発表(ポスター)
1AM-078

高齢者における課題関連思考の適応的性質

[責任発表者] 井関 龍太:1
[連名発表者] 岩井 律子:1, [連名発表者] 中島 亮一:1, [連名発表者] 上田 彩子:1, [連名発表者] 熊田 孝恒:1,2
1:理化学研究所, 2:京都大学

 高齢者は若齢者に比べて課題無関連思考(TUT)の報告は少ないが(e.g., Giambra, 1977-78, 1979-80; Giambra, 1989; Jackson & Balota, 2012; Krawietz et al., 2012),課題関連思考(TRT)は多いことが見出されている(McVay et al., 2013)。課題関連思考とは,目前の刺激や課題目標に直接対応はしないが広く課題に関連する思考であり,パフォーマンスや自己の状態に対する反省的思考を含む。高齢者は一般に若齢者よりも反応時間が長いため(Der & Deary, 2006),すばやく反応せよという課題要求を満たせないことが相対的に多いと考えられる。すると,高齢者は,単に認知的加齢の結果として思考が変化したのではなく,課題要求に応えられないことが多いために反省的思考が生じやすく,TRT報告が増えた可能性がある。また,TRTは反省だけでなく,より積極的に方略を調整する機能を担うかもしれない(Stawarcyzk et al., 2011)。課題要求への応答可能性が反省や方略の調整を促すのだとすれば,困難なスピード要求は,高齢者にも若齢者にもTRTの生成を促すと予想される。本研究では,異なる度合いのスピード要求が高齢者および若齢者の思考,また,思考とパフォーマンスの関係に及ぼす影響を検討する。
方 法
実験参加者:高齢者群67名(平均68.5歳,女性27名)と若齢者群96名(平均21.2歳,女性52名)が参加した。
刺激:左右いずれかに傾いた直径約3.3°のガボールパッチを用いた。実験ブロックにおける傾きの度合いは,階段上下法(3-Down, 1-Up)を用いて個人ごとに決定した。
手続き:各試行は,注視点(300〜1,500 msのうちからランダムに決定)ののち,ガボールパッチが100 ms現れ,ブランク画面が続いた。実験参加者には,刺激が左右いずれに傾いているかを制限時間以内にボタンを押して回答することを求めた。制限時間は,若齢者ではスピードブロックで400 ms,正確さブロックで750 msであった。高齢者ではそれぞれのブロックの制限時間を70 ms長くした(cf. Forstmann et al., 2011)。制限時間を超過してからボタンを押すと警告メッセージが表示された。加えて,正確さブロックでは,反応を誤った場合にエラーについてのメッセージが表示された。最初に階段上下法による調整ブロックを実施した後,スピードブロックと正確さブロックを行った(実施順は参加者間でランダムにした)。スピードブロックと正確さブロックは,それぞれ360試行から構成された。各ブロック中18回,ランダムな時点で後続試行の代わりに思考プローブを提示した。思考プローブは,プローブ提示直前の思考について尋ねる画面から構成され,以下の8つの選択肢からひとつを選ぶことを求めた:(1)刺激のこと,(2)課題のこと,(3)自分の成績,(4)自分の調子,(5)空白(頭の中が空っぽ),(6)まわりの様子,(7)実験が終わった後のこと,(8)その他。プローブへの回答は,(1)を選択した場合はon-task,(2)と(3)はTRT,それ以外はTUTに分類した。
結果と考察
反応時間と正答率:弁別課題の正反応時間と正答率について,2(群:高齢者・若齢者)×2(ブロック:スピード・正確さ)の分散分析を行った。いずれについても,ブロックの主効果(反応時間:F(1, 161) = 256.95, p < .001;正答率:F(1, 161) = 178.20, p < .001)と交互作用(反応時間:F(1, 161) = 12.39, p < .001;正答率:F(1, 161) = 8.69, p = .003)が有意であり,意図通りの操作がなされたことが確認された。
思考報告:各ブロックの思考報告率をFigure 1に示した。TRT報告率について2(群)×2(ブロック)の分散分析を行ったところ,群の主効果はみられなかった(F(1, 161) = 0.20, p = .66)。本研究では課題の難易度を個人ごとに調整したため,群の効果は目隠でなくなったものと思われる。代わりに,ブロックの主効果(F(1, 161) = 52.26, p < .001)と交互作用(F(1, 161) = 4.89, p = .03)がみられた。高齢者でも若齢者でも,課題要求を満たすことがより困難なスピードブロックで正確さブロックよりもTRTが多かった。このブロック間の差は若齢者で高齢者よりも大きかった。
各思考時のパフォーマンス:各思考の報告直前の5試行について,正答率と正反応時間の分析を行った。正答率(Figure 2を参照)について2(群)×2(ブロック)×3(思考:on-task, TRT, TUT)の分散分析を行ったところ,ブロック×思考の交互作用が有意であった(F(2, 218) = 6.56, p = .001)。正確さブロックでは,TRTが報告される直前の試行で正答が少なかった。したがって,TRTは課題要求によって単に増減したのでなく,実際のパフォーマンスにおいて課題要求を満たせなかったことと結びつくことが示唆された。3要因の交互作用は有意でなかった(F = 1.22)。反応時間については,思考の主効果,思考に関わる交互作用はいずれも有意でなかったが(F < 1.61),床効果の可能性が考えられる。

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