演題

SY12-4

甲状腺ホルモンの国際標準化とハーモナイゼーション

[演者] 菱沼 昭:1
1:獨協医科大学 感染制御・臨床検査医学

甲状腺ホルモン検査、特にFT4とTSHは甲状腺疾患の診断、治療の上で根幹をなす検査であるにも拘わらず、各製造メーカーキット間で測定値のはらつきが多い。このような状況のもと、International Federation of Clinical Chemistry (IFCC) ではCommittee for Standardization of Thyroid Function Tests (C-STFT) を組織し、キット間差の是正を進めている。今回、私はC-STFTのattending member として参加しているので現況を報告したい。【標準化の必要性】平成26年度に日本医師会が施行した第48回臨床検査精度管理調査結果報告書によると、FT4の方法間変動はCV26.97~28.54%となっており、1.391ng/dLに設定された試料において最大値をあたえるキットと最小値をあたえるキット間の差は1.6ng/dL以上で測定値の2倍以上の差を認める。TSHは、その差は小さいものの、方法間変動はCV8.84~9.84%で、3.053mIU/Lに設定された試料において最大値をあたえるキットと最小値をあたえるキット間の差は0.75mIU/Lである。このような中、日米欧の甲状腺学会ならびに米国内分泌学会、米国内分泌医学会では次のような潜在性甲状腺機能低下症の治療ガイドラインを発表している。成人で血中TSH値10mIU/L以上、妊婦または妊娠を希望している女性なら2.5mIU/L以上を治療の対象とする。しかし、上記のキット間差を考慮すると測定するキットの差により治療すべき人としなくても良い人が異なってくる可能性がある。【FT4標準化コンセプト】T4は化学的に定義された物質であり、基準測定操作法 (cRMP: conventional Reference Measurement Procedure) により各血清サンプルを値付けすることにより検査標準化が可能である。具体的にはIRMM468/469を一次標準物質に使用し、平衡透析—液体クロマトグラフ同位体希釈タンデム質量分析法 (ED ID-LC/tandemMS) をcRMPとする。【TSHのハーモナイゼーションコンセプト】TSHに関しては、血清TSHは多様な糖化等修飾された混合物である。現在mIU/Lの濃度として定義される物質はWHO IRP80/558 & 81/565 であるが、これはヒト死体下垂体抽出物であるので、厳密には血清TSHとは分子的に異なると考えられる。これを解決すべき代替標準測定法として、全方法間平均法 (APTM: all-procedure trimmed mean) が採用された。全方法間で得られた測定値の平均値を各血清パネルの測定値と値付けする方法である。この方法はハーモナイゼーションと呼ばれる。【IFCC C-STFTの活動】IFCC C-STFTでは、FT4はED ID-LC/tandemMS法による標準化、TSHはAPTMによるハーモナイゼーションを次に示す4期により施行中で、2018年の特定日を設定し全世界での実施を目指している。フェーズI: 現メーカー法の質の確認。フェーズII: 各製造メーカー内での標準化実現可能性の検証。フェーズIII: 病的血清サンプルを用いた検査の質保証の検証。FT4については、広い濃度領域にて標準化が可能であったが、ED ID-LC/tandemMS法に比べると現行メーカー法の測定値が15~50%低値となるため、標準化後は全製造メーカーの測定値が高くなる。TSHは広範囲の濃度領域にてハーモナイゼーションが可能であり、TSH分子の糖化の差の影響も認められなかった。フェーズIV: 現在進行中の最終段階の基準値測定試験。日本の2メーカーを含む全世界12メーカーが参加していたが、甲状腺ホルモンキットを製造販売中の日本の3メーカーも新たに加わり、日本で販売中のメーカーはすべて参加することになった。FT4はED ID-LC/tandemMSで値付けされた濃度範囲4.5~164pmol/Lの100サンプルを血清パネルとして利用し、TSHはAPTMにより値付けされた濃度範囲0.002~75mIU/Lの100サンプルを血清パネルとして利用している。米国FDAの認証を取得するためには510k規程に基づき従来法との比較試験が必要であるが、C-STFTが基準法を設定しているため、計120人の健常人サンプルを用い基準範囲の設定を予定している。【今後の方針】2018年の特定指定日で全世界一斉に標準化/ハーモナイゼーションが施行されるが、それまでに行なわれなければならない課題もある。その第一はFT4測定値が現行の値より全メーカーで高くなるという事実の情報提供である。最大2倍まで上昇するメーカーもあるので、混乱を避けるため、医師を含めた医療従事者、患者、検査室、製造メーカーに適切に情報を提供しなければならない。また、基準値もそれに従い変更される。標準化/ハーモナイゼーションの最大の利点は、全メーカーの測定値が直接比較可能となるので、個人カルテのIT化に大きく貢献できると考えられる。また、現在問題となっている学会ガイドラインの診断・治療判定値も統一基準を設けることが出来る。現在バラバラである研究報告値も直接比較可能となり、今後研究報告は基準化された方法で測定されることが求められるようになる。今後の方向性として求められる重要なポイントでは、C-STFTとしては手が付いていないが、人種別、性別、年齢別の基準値の設定がある。
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